さて、今回は、最判平成24年9月13日民集66巻9号3263号についての開設です。

1.事案の概要

 原告Xは、「定期建物賃貸借契約」と題する書面(以下「本件契約書」といいます。)を被告Yと取り交わし、期間を5年間、賃料を月額90万円とする賃貸借契約を締結しました。

 本件契約書には、本件賃貸借契約には、契約の更新が無く、期間の満了により終了する旨の条項が定められていました。

 その後、期間の満了によってXがYに対して、建物明渡と賃料相当損害金を求めて、訴え提起しました。

2.争点

 Yの主張は、本件賃貸借契約にあたり、借地借家法38条2項所定の書面として、契約書と別個独立の書面の交付が必要であるにもかかわらず、その交付がなされていないため、本件定期借家条項は無効となる、という主張です。
 そこで、「借地借家法38条2項所定の書面は、契約書とは別個独立の書面であることを要するか」が争点となりました。

3.結論

 「法38条2項所定の書面は、賃借人が、当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要する」

4.解説

(1)定期建物賃貸借契約とは、期間の満了により契約が更新されずに終了し、その際に正当事由等が必要とされない形の賃貸借契約のことをいいます。
 通常の建物賃貸借契約は、更新拒絶に正当事由を要求するなどし、借主の保護に厚い契約ですが借家の供給に関する萎縮的効果や、合理的な価格形成の阻害等が問題となり、1999年に導入されました。

(2)定期建物賃貸借契約を締結するには、①書面により期間を定めて契約すること、②契約の更新が無いことを①に定めていること、③あらかじめ契約の更新が無いことを記載した書面を交付し説明すること、が必要となります。
 本件での問題は、③も①の中に含めて記載してしまってよいのか否か、という点でした。

(3)上記3記載の通り、最高裁は、別個独立の書面による説明を要求し、かつ、当事者が期間の満了により終了することを知っていたとしても、その必要性には無関係ということを判示しました。
 要するに、必ず、別個独立の書面を交付して、事前に更新が無いことを説明しなければならないという事です。

(4)したがって、既に締結されている定期借家契約に関しては、本件最高裁にてらして無効と判断されるリスクが生じてくるため、対応が必要となります。また、今後締結する定期借家契約に関しては、最高裁に反しないよう、別個独立の書面をもって更新がない契約であることを説明しなければなりません。

弁護士 水野太樹