今回は、介護事故発生後の対応について、詳細認定が行われた裁判例を取り上げたいと思います。
東京地裁立川支部において平成22年12月8日に判決が下された事案です。事案の概要は、以下のとおりです。
デイサービスの職員(看護師含む)が利用者に対して声をかけたり見守る中、利用者が専門業者から取り寄せた高齢者用の食事をとっていたところ、大きなしゃっくりをした後、痙攣と震えが起こり、唇が青くなってしまったところ、見守っていた職員が、同席していた看護師に声をかけ、看護師がすぐに口の中の物を取り出そうとしたが出て来なかったので、その場でタッピングやハイムリッヒ法を実施したが、反応が戻りませんでした。さらに、嚥下用チューブで吸引を実施したうえ、AED、人工呼吸も実施しながら、救急通報し、救急隊員の心肺蘇生法により一度心拍が再開しましたが、残念ながら、その後は意識が戻らないまま、死亡するに至りました。
裁判所は、見守りを担当していた職員が役割を的確に果たしており、見守りを怠ったとはいえないこと、関係法令の定める基準に適合した職員の配置が行われており、基準を上回る介護が契約の内容とはなっていないこと、専ら食事の見守りを担当する職員として配置されていたのが介護員1名と看護師1名であったとしても、職員らがそれぞれの配置された状況の下でできるだけのことはしたものと認定し、債務不履行責任はないとの判断をくだしました。
本件においては、事故に対して、冷静に判断し、的確な処置を速やかに行っていたことが裁判所においても事業者の責任を否定する大きな要素になったものと考えられます。
なお、同裁判例においては、事故後に事業者が行った謝罪についても判断が下されています。利用者の遺族は、当初は責任を認めていたにもかかわらず、後日法的責任はないという態度に変わったことを不当であると主張しておりましたが、裁判所においては、施設長が謝罪の言葉を述べ、責任があると趣旨と受け取れる発言をしていたとしても、結果として期待された役割を果たせず不幸な事態を招いたことに対する職業上の自責の念から出た音場と解され、これをもって事業者に法的な損害賠償責任があるというわけにはいかないと判断されています。このような裁判所の判断は、施設における事故後の対応について、一定の指針となるのではないでしょうか。