選択肢からはずした方がよい法律事務所

 前回、日本の弁護士の杜撰な事件処理、メンタリティーについて解説しましたが、では、そのような弁護士を顧問にしたり仕事を依頼する羽目にならないようにするにはどうすればよいのか、お話ししたいと思います。
 前回の記事はこちら:御社の顧問弁護士はなぜ役に立たないのか (月刊コーレア連載「弁護士シリーズ」 第8回 掲載)

 まず、どのような弁護士、法律事務所を選択肢からはずすのが賢明かについてお話しします。

 第1のポイントは、弁護士が1人だけの事務所は選択肢からはずすのが賢明です。1人でやっているということは、その弁護士の仕事ぶりをしっかり管理している上司がおりませんので、ほとんどが杜撰な事件処理をしていると言っても過言ではありません。このような弁護士に仕事の依頼をしてしまうと、依頼した案件はたちまちブラックボックス化します。弁護士が1人で駆けずりまわっていますので、報告がなかなか来ない、こちらから連絡しても不在が多くて捕まらない、という事態に陥ります。日本全国の約8割が弁護士1人で業務を営んでいる法律事務所だと言われています。

 第2のポイントは、事務所を経営しているボス弁護士1人、その弁護士に雇われている勤務弁護士が1人という法律事務所、これもやめたほうがよいでしょう。弁護士が2人いるので1人でやっている事務所よりもマシに見えるかもしれませんが、それが必ずしもそうではないのです。というのは、弁護士が2人しかいないので、ボス弁護士は部下である勤務弁護士の仕事の管理に集中できません。稼ぐためには、ボス弁護士自ら駆けずりまわらなければなりません。その結果、経験未熟な若い勤務弁護士に仕事を丸投げ……。考えただけでもゾッとしませんか。

 第3のポイントは、複数の弁護士が所属している法律事務所です、これをどのように評価すべきか……。例えば、弁護士が人くらい所属している法律事務所ならどうでしょうか。このくらいの人数がいれば、マネジメント・クラスの弁護士が部下の弁護士をしっかり管理していそうに見えますよね。弁護士の仕事の進捗管理をシステマテックに遂行できる仕組みも導入しているかもしれません。しかし、これも残念ながらそうとは限らないのです。なぜかというと、複数の弁護士が所属している法律事務所の実に6割以上がいわゆる「経費共同事務所」だと言われています。経費共同事務所とは、オフィスの家賃とか従業員の給料、什器備品、リース料等の経費を複数の弁護士で共同負担している法律事務所です。つまり、経費節約のために寄り集まっているだけで、その実態は弁護士が1人しかいない事務所と変わらないわけです。複数いる弁護士のうちの誰かがリーダーとなって他の弁護士の仕事を管理していません。したがって、このように複数の弁護士が所属している法律事務所でさえも選択肢からはずしたほうが無難です。

選択肢に入れてよい事務所

 ここまでくると、「選べる法律事務所がないではないか」と思われた方も多いと思います。でも、複数の弁護士が所属している法律事務所でも、経費共同ではなく、組織的に対応してくれる法律事務所を選ぶコツはあります。

 第1に、弁護士が概ね10人を越える事務所、このくらいの規模になってくると事務所の運営上経費共同が難しくなってきます。経費共同で最も多いのは、2人から5人程度です。10人を越える経費共同事務所もありますが、数は少なくなっていきます。もっとも、これも絶対にそうだという保証はできませんが……。

 第2のポイントは、弁護士が10人を越える弁護士法人です。弁護士法人なので、通常の会社と同様に組織的に対応していることは事業形態から見て明白です。ただ、弁護士法人といえども、その多くは弁護士が1人でやっているというのが実態です。法人成りしていても実質個人経営事務所です。なので、先に述べた杜撰な事件処理から抜け出せていません。2人、3人の弁護士が所属する弁護士法人であっても、この程度の人数では各弁護士がプレイヤーであり、他の弁護士の仕事を管理する仕組みを整えることは困難です。5人を越えるとだんだん事件を処理する弁護士とマネジメントに注力する弁護士とに機能分化してきますが、概ね10人を越えると企業的な管理体制が整備されるようになると思われます。

 もっとも、これで弁護士選びの条件が整ったわけではありません。ここまでは、あくまでも管理不在のダメ弁護士をオミットするための作業に過ぎません。弁護士選びの最低条件です。

 では、皆さんがまさに選択すべき法律事務所にふさわしい条件は何かについてお話ししたいと思います。ある意味、ここからが本論です(前置きが長すぎましたね)。

優れた法律事務所選びの条件

 それでは優れた法律事務所選びのポイントは何でしょうか。

 第1に、その法律事務所がマーケティング機能を備えていることです。顧客満足に真剣に取り組んでいる法律事務所であれば、顧客のニーズを探る組織的努力をしているはずです。顧客の声に耳を傾け業務改善に反映させるような仕組みを整えている法律事務所でないと本物ではありません。例えば、顧客に対するアンケートを実施しているとか、クレーム対応を誠実に行う部署を備えている、などといった点が参考になります。

 第2に、迅速な事件処理を実現できるようなオペレーションを構築できていることです。うたい文句で「迅速に処理します」と記載してある法律事務所のホームページを時々目にしますが、単なるスローガンの可能性もあるので、迅速とは具体的にどのくらい迅速なのか具体的な数値で尋ねてください。そして、どうしてそのようなスピードで処理することが可能なのか、その理由も尋ねましょう。具体的な数値を根拠を説明できれば、とりあえずその法律事務所は合格点です。

 第3に、依頼者に対する報告業務の基本方針についても確認してください。頻度の高い報告業務を約束する法律事務所でないと、ブラックボックス化するおそれが大きいので注意が必要です。具体的にどのくらいの頻度で報告してくれるのか、月1回か週1回かなど、数値で確認してください。このときに、対応した弁護士が嫌な顔をするようであれば、その法律事務所ではマメな報告業務が仕組み化されていないと見るべきでしょう。法律事務所としての基本姿勢に問題があります。

 第4に、弁護士の専門性を高めるための組織的努力がなされているか否かも重要です。「そんなこと外部から分かるのか?」と思われる方もいると思いますが、ある程度の推測は可能です。例えば、その法律事務所に同種事件の取扱件数を訊いてみるのもよいでしょう。また、専門分野毎の事業部制を採用している法律事務所も専門性向上に取り組んでいる証左と言えるでしょう。高度に専門性が進んでいる欧米の法律事務所では一般的に分野毎の部署が設けられています。

 この4つの事柄に真剣に取り組んでいる法律事務所であれば、概ね問題はないと思います。これって、企業では常識なんですが法律事務所では決して常識ではありません。嘘だと思ったらいくつか法律事務所を訪問して確認してみてください。4つの条件を満たしている法律事務所、なかなか見つかりませんから(笑)。