労務問題に関する悩みは古今東西溢れていますが、残業代についての相談はとくに多いと思います。
営業職等、月額当たり○○時間を残業見込みとして、いわゆる「みなし残業手当」を支給している会社があれば注意が必要です。
特に、「みなし残業手当」について、①基本給と残業代等を明確に区分していない場合②「みなし残業手当」について、職能給・役職給等と銘打って、残業代であることが就業規則等で明らかにされていない場合、注意が必要です。
なぜならば、未払い残業代が争われた場合、裁判上で会社が払っていると思っていた「みなし残業手当」が残業代として認められない場合があるからです(上記①②を満たしていてもみなし残業手当が残業代として認められない場合はあります。)。
仮に従業員から未払い残業代の請求があり、会社が支払ってきた「みなし残業手当」が残業代と認められなかった場合、どれだけ悲惨なのか、そのリスクが明らかになるように、以下、シミュレーションをしてみたいと思います。
(事案)
基本給 16万円
ひと月の就業時間(残業代を除く) 160時間
みなし残業手当20時間分 2万5000円
実残業時間 50時間
1.みなし残業手当が残業代の支払いと認められる場合
時間給は1000円のため、残業代は1250円/1時間となるため、
1250円×30時間=37500円
となり、一月当たり37500円の残業代を支払わないとなりません。
2.みなし残業手当が残業代の支払いと認められない場合
まず、みなし残業手当が残業代の支払いと認められない場合は、そもそも時間給が1000円と評価されない可能性があります。
すなわち、時間給=(16万円+2万5000円)÷160時間≒1150円
となるため、残業代は1430円/1時間となります。
さらに、会社が支払っていた20時間分のみなし残業手当も、残業代として支払ったものと認められないため、50時間分の残業代を支払わなければなりません。
すなわち、1430円×50時間=7万1500円
となり、一月当たり7万1500円の残業代を支払わなければなりません。
上記の簡易な例によっても、みなし残業手当が残業代として認められるかにより、その支払い額が大きく異なります。
現在労働債権の時効は2年ですので、上記の例が24カ月続いたと仮定した場合、後者の支払わなければならない額は、171万6000円となります。
さらに、脅すつもりはありませんが、上記残業代の支払いが裁判上で争いになった場合、未払い残業代の支払いについて、付加金といって、裁判所の裁量で最大で未払い残業代の2倍の支払いを命令することができます。
そうすると、付加金も合わせて、343万2000円を支払わなければならない危険があるということを認識しなければなりません。
私の経験として、未払い残業代の支払いで紛争となる場合は、当該従業員が他の従業員を引き連れて請求してくる場合が見受けられます。とすると、会社としてのリスクは何倍にも膨れ上がるということを覚悟すべきです。
みなし残業手当を利用され、それが残業手当として認められるかご不安のある方は是非一度当事務所弁護士に御相談下さい。