注:この会話は架空のものです。

事務員A「先生、ブランドの役割って何でしたっけ?」

太田「また突拍子もないことを言うねえ。離婚ブログでも突拍子もない発言をしたけど。」

「だって、何回か前のブログにブランドがあ~だこ~だ書いたのは先生じゃないですか! しかも、私の採用面接の際、経営学部出身だからといってブランドについて色々質問されて悩みましたよ。」

太田「それ、私の質問じゃないんだけどねえ。『なぜブランド物は売れるのか?』との質問に、『持っているとかっこいいから。』と答えたのはあなたでしたっけね。よく覚えていますよ(ニコニコ)」

「・・・(恥)。それはともかく、もう一度復習させてください!」

太田「私は経営学については素人ですから、知的財産法の観点からお話ししますね。分かりやすくするために、今回はAさんがA株式会社を設立して、『Aちゃん印☆』というバッグのブランドを展開したとしましょう。」

「・・・はい(そんな売れなさそうなブランド名はイヤだ!)。」

太田「『Aちゃん印☆』のかばんは、安い値段の割には皮の質もそこそこ良くて、縫製もまあまあ、デザインも無難なのです。とりあえず、『Aちゃん印☆』のタグがカバンに縫い付けてあります。丈夫で長持ち。物もたくさん入ります。」

「もうちょっと、心躍る設定にしてくださいよ~。」

太田「でも、そのおかげでAさんと同世代のOLさんには大人気です。雑誌でも、『普段使いにグー☆』なんて取り上げられるようになりましたとさ、めでたしめでたし。」

「やったあ! 次は新作を出さなきゃ♪」

太田「(単純だな・・・)たぶん新作もヘマをしなければ売れると思うけど、なぜ売れると思いますか?」

「Aちゃんがカリスマ女社長だからですっ!」

太田「・・・ではないですよね(笑)。これまでに販売した『Aちゃん印☆』のかばんは、値段の割には良いものだし、デザインも無難で仕事で使うのに便利、などという信用を獲得しています。なので、消費者は、『Aちゃん印☆』のかばんであれば、次作もそのような良いものだろう、と期待しています。このような信用をグッド・ウィルと呼んでいます。この場合、『Aちゃん印☆』というブランドにグッド・ウィルが発生しているので、Aさんがいくらカリスマ女社長でも、『太田印』なんて別ラインのブランドを立ち上げたら売れるかどうかは良く分からない。A株式会社そのものが有名で、かつA株式会社が『Aちゃん印☆』のかばんを販売していることも有名になっていればまた別でしょうが。」

「そうですよね・・・。好きなブランドの販売元を調べたら良く知らない会社だったということはあります。」

太田「そうそう。でも、『Aちゃん印☆』というブランドにグッド・ウィルが生じた以上は、A株式会社そのものが有名にならなくても、『Aちゃん印☆』の新作も、その次の新作も、普通は売れるでしょうね。もっとも、『Aちゃん印☆』のブランドを高めるために何かしらの努力は必要ですけど。品質を向上させるとか、ね。」

「そうですね。がんばらなきゃ!」

太田「さて、この『Aちゃん印☆』がついたかばんであれば、A株式会社かどうかはともかく、全て同じ会社が製造・販売しているだろうと消費者に思わせる機能を、出所表示機能といいます。また、『Aちゃん印☆』がついたかばんならば、同一の品質だろうと消費者に思わせる機能を、品質保証機能といいます。これらの機能は通常は商標法の本で商標について言及されることですが、特に商標登録してようがしてなかろうが同じですね。このブランド売れる!とにらんだ時点で商標登録するのが安全ですが、その話はまた別で。」

「出所表示機能、品質保証機能(メモをとる)。」

太田「ところが、Aさんが休日にショッピングをしていると、見たことのない『Aちゃん印☆』のかばんが売られています。よく見ると、縫製が雑だし、デザインも悪趣味です。どうも『Aちゃん印☆』をかたる他の人に真似されたらしい。Aさんはどうしますか?」

「店にそのインチキかばんを卸した人物を特定して、ボコボコにします!」

太田「おおっと、ボコボコはいけない。特定するまではいいのですが。」

「じゃあ、どうしろというんですか!ふが~っ」

太田「お、落ち着いて(汗)。まあ、普通は『売るな!』という警告書を発送して、示談するのがファーストステップですね。それでもいうことを聞かないのならば断固法的措置をとりましょう。商標登録している場合、していない場合なんかで対応が変わってくるのは以前のブログに書いた通りです。」

「断固法的措置をとります!」

太田「そうしないと、他の悪い人にも真似されますからね。ところで、『Aちゃん印☆』のタグをつけて商品を売る人が他に出てくると、どんな弊害がありますか?」

「客を他に取られて儲かりません!」

太田「他には?」

「だっさいカバンが『Aちゃん印☆』だと思われると、カリスマ女社長の権威が失墜します。いやあああああ!」

太田「カリスマの権威はさておいて、ですね。そういう、品質の良くないものが『Aちゃん印☆』のブランドの商品だと思われると、いままで『Aちゃん印☆』というブランドが築き上げてきたグッド・ウィルを損ねることになりますよね。『な~んだ、あんなカバンだったの?』って。また、先に書いた出所表示機能と品質保証機能も害されます。いいことは何にもありません。だから、一流ブランドはこういうことをされると間違いなく法的措置をとってきます。」

「『Aちゃん印☆』も一流ブランドにしてみせます!」

太田「それで、『Aちゃん印☆』が一流ブランドかどうかはさておき、日本を代表するかばんのブランドになったとしませんか。今までは不正競争防止法でいうと、2条1項1号しか適用されなかったのに、2号が適用されるレベルになったのです。」

「先生、急にチンプンカンプンです。1号・2号ってなんですか?」

太田「不正競争防止法2条1項1号の商品等主体混同行為と同2号の著名表示冒用行為で保護されるレベルの差を言っているんですね。例えば、『Aちゃん印☆』のかばんが関西地区限定で良く知られていたとすると、1号の「周知性」はみたすかもしれないけど、2号の「著名性」はみたさないのです。だから、2号では保護されない。」

「1号の保護の範囲と2号の保護の範囲はどう違うのですか?」

太田「1号には混同を生じさせる、という要件があるのですが、2号にはその要件がないんですよ。例えば、『Aちゃん印☆』はかばんのブランドですから、同様に他の人がかばんに『Aちゃん印☆』をつけて売ると、これは1号の保護範囲内です。ところが、他の人が『Aちゃん印☆』のカップラーメンを売り出すと、それはA株式会社の営業や商品と混同するおそれは通常ないので、1号の保護範囲外です。」

「でも、それでは何となく納得がいきません。」

太田「ということで、著名な商品等表示に限定して保護の範囲を広げましょう、というのが2号なんですよ。これについてはまた次回!」

弁護士 太田香清