プログラム開発会社がユーザーから開発を請け負ったプログラムの一部の作成を他のプログラム開発業者に委託する契約書をチェックする場合、契約条件として不利なものがないかということだけでなく、その取引が下請法適用対象となっていないか、なっていた場合下請法違反となる点がないかどうか、という点でのチェックが必要です。

 上記のような取引は、下請法でいうところの「情報成果物作成委託」にあたりますが、下請法が適用されるのは、資本金を基準として、原則的に、親事業者の資本金が5千万円超かつ下請事業者の資本金が5千万円以下の場合又は親事業者の資本金が1千万超5千万円以下かつ下請事業者の資本金が1千万円以下の場合です。

 そして、下請法が適用される場合には、下請法第3条に定められた事項を全て記載した発注書、いわゆる3条書面を発行しなければ下請法違反として名前が公表されたり罰金が科されたりという不利益を受けることになります。

 この下請法は、もともとは弱い立場にある下請け業者を下請けいじめから守ることが目的ですが、実際の運用をみると、親事業者に厳しすぎるのでは?と思われる点があります。

 特に情報成果物作成委託の場合によく問題となるのが、支払遅延と納期と検収の関係です。支払遅延における「支払期日」は下請法第2条の2により、「給付を受領した日から起算して、六〇日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない」とされています。

 プログラム開発の場合、納期に成果物であるプログラムが納品されて、それから検収を行うという運用になっていると思うのですが、この点について、下請法の条文通りに解釈すれば、検収に合格しているかどうかに関係なく、納品日から起算して60日以内に下請代金を支払わないと支払遅延になる、ということになりますが、そうすると、親事業者にとっては、検収に合格していないのに代金を払わなければならないリスクが生じることになってしまいます。しかし、公正取引委員会の出している下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準によれば、検収合格を「給付を受領した日」とすることを合意している場合には検収合格を支払期日の起算日とする余地があるとしつつ、但し書きにおいて、3条書面に明記された納期に納品されていれば、検収が終わっているかどうかに関係なく、納期に給付を受領したものとして、「支払期日」の起算日とする。という趣旨の記載があり、非常にわかりにくい運用が定められています。この但し書きの趣旨について、公正取引委員会の問い合わせ窓口に問い合わせたところ、やはり3条書面の納期に親事業者の下に成果物が納品されていれば、検収結果によらず納期を基準に支払期日が決められる、ということだそうです。

 これは親会社の立場からすれば、下請いじめならぬ親会社いじめのようにもとれる運用ですが、自衛のためには支払遅延にならないように納期を設定する必要があるといえるでしょう。

弁護士 堀真知子