非常におどろおどろしいタイトルから始まりましたが、今回のテーマは、賃貸住宅で起きた自殺について、大家が遺族に損害賠償請求訴訟を提起した事案についてです。
損害賠償請求の根拠
賃借人は、賃貸借契約に基づき、賃貸目的物の引渡しを受けてから返還するまでの間、賃貸目的物を善良な管理者と同様の注意義務もって使用収益する義務があり、これを善管注意義務といいます(民法400条)。
そして、賃借人の善管注意義務の対象に、賃貸目的物の中で自殺しないということも含まれているとされています。これは、賃貸目的物を物理的に損傷させないようにするだけではなく、賃借人が賃貸目的物内で自殺をすれば、これにより心理的な嫌悪感が生じ、一定期間賃貸することができなくなったり、賃貸できたとしても賃料を下げなければならなくなるのが通常であるし、賃貸目的物の中で自殺をしないよう求めることは、賃借人に大きな負担となるものではないので、このようなことを賃借人の義務としてもよいと考えられたからです(東京地判平成19年8月10日)。
そして、遺族は、自殺した賃借人(被相続人)の財産に属した一切の権利義務を承継するため(民法896条本文)、相続により賃借人の損害賠償義務を相続することになるのです。
したがって、遺族は、相続により、自殺した賃借人の損害賠償義務を負うこととなります。ただし、相続人は相続放棄ができますから(民法915条1項)、被相続人にプラスの財産がなければ、相続放棄によって損害賠償義務を回避することができます。
損害の範囲
大家側が遺族に請求する損害としては、家賃の減額分や修繕費、原状回復費用、部屋の供養料などですが、訴訟で損害として認められるのは、もちろん自殺したこととの相当因果関係にあると認められたものとなります。
心理的瑕疵
訴訟になった場合に大きく争いとなるのが、上記の損害のうち、家賃の減額が心理的瑕疵によるものかという点です。すなわち、自殺があった物件の場合、賃貸人は賃借人へ重要事項の説明を義務付けられているのですが、自殺があったことを告知することにより、家賃を下げざるを得なくなるというわけです。
これに対し、遺族としては、心理的瑕疵を自殺との相当因果関係に含めるべきではないと主張し、損害ではないと主張することになります。
このように、心理的瑕疵をどう評価するかが、最も大きな問題となるわけです。
最近の傾向
自殺件数が増加している昨今、このように賃貸住宅で自殺するケースも増え、それによって訴訟も増えつつあると言われています。現在では、地裁での判決が2件程度しかありませんが、9月8日には東京高裁で控訴審が始まるということで、上記の心理的瑕疵をどう評価するかが注目されるところです。