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 会社が訴訟に巻き込まれたとき、しばしば裁判の資料として、会社の企業秘密の開示を求められることがあります。
 適正な裁判が行われるために秘密の開示が必要である一方で、どんな秘密でも開示しなければならないとすると、人間関係、社会関係に大きな支障が生じかねず、一定の場合には、秘密の開示を拒否することが認められています(民事訴訟法197条)。

 会社の企業秘密の場合、「技術又は職業の秘密」に関する事項については、開示を拒否することが認められています(民事訴訟法第197条1項3号)。
 この「技術又は職業の秘密」とは、「その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落し、これによる活動が困難になるものまたは当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるもの」をいうとされています(最高裁平成12年3月10日判決)。

 したがって、技術・職業の秘密のすべてではなく、そのうちの保護するに値する秘密に対してのみ、開示を拒否することが認められることになります。

 保護に値する秘密か否かは、秘密が公表されることによって秘密保持者が受ける不利益(秘密保持の利益)と、開示拒否によって裁判における真実発見や裁判の公正が犠牲になる不利益を秤にかけて決まります。
 秘密開示により企業の受ける打撃が深刻で、裁判の公正等を犠牲にしてもそのような結果を回避する必要があるときに、保護に値する秘密として開示を拒否することができると考えられています。
 そして、秤にかける要素としては、当該事件の重要性・公共性の有無・程度、当該技術または職業の秘密の重大性・態様、代替証拠の有無、証人の中立性の有無、証人側当事者が立証事項について主張・立証責任を負うかどうかなどが考慮されます。

 具体的には、製造販売業における原料仕入先、仕入価格、販売先、販売数量、顧客リスト、証券会社または人事興信所の情報入手経路、人員整理に際して希望退職したが慰留によって撤回した者の氏名、労働組合の匿名組合員の氏名などについて、裁判上、開示を拒否することが認められました。

 企業としては、最低限、営業秘密等の職業の秘密として保護されるべきであると考える秘密の記載されている文書については、「部外秘」「極秘」などの表示をして、当該文書に営業秘密が含まれていることが客観的かつ明らかに認識できるようにしておくことや、営業秘密にアクセスできる従業員を限定するとともに、パスワードの設定、施錠した保管場所への保管、アクセスのための詳細なルール作りの設定など、営業秘密の管理を徹底することが必要ではないでしょうか。