1 不動産仲介業の役割
不動産売買においては、仲介業者が契約当事者の間にたって、契約手続を進めることが通常です。特に、買主又は売主が不動産業に慣れていないような場合は仲介業者がいなければ、不動産の売買契約を進めることは困難でしょう。
さて、不動産売買における仲介業者ですが、単に、契約当事者を相互に紹介すればよいというものではありません。不動産売買契約において重要な役割を担うことが多く、その義務の範囲も一概には決めることができないのです。
2 仲介業者の契約当事者との法的関係
仲介業者と契約当事者は、通常、仲介契約を締結し、当該契約に基づいて業務を行います。
民法上は、準委任の関係、すなわち法律事務以外の事務を委託する関係にあると考えられており、委任契約と同様に善管注意義務を果たす必要があります。
一方で、仲介業者は、宅建業法上の宅地建物取引業を行う専門家でもあり、同法上の義務(契約の場面における主な義務は重要事項説明義務でしょう。)を果たさなければ、行政庁からの指導等の対象となってしまいます。
3 重要事項説明と善管注意義務の関係について
宅建業法及び同法施行規則等には、宅地建物取引業者が説明しなければならない事項として、重要事項が列挙されており、重要事項説明義務を尽くさなかった場合、原則として民事上の善管注意義務にも違反し、民事上の責任を負うと考えられています。
したがって、重要事項説明義務は、守らなければ行政庁からの指導等の対象となるのみならず、民事上の義務の一部となっているといえると思われます。仲介契約を交わした当事者同士では善管注意義務を負担し、少なくともその内容の一部として宅建業法上の重要事項説明義務を負担している状態にあるのです。
それでは、重要事項として列挙されている事項さえ説明すれば、民事上の法的責任を免れるかというと必ずしもそうではありません。宅建業法上の重要事項は例示列挙、つまり、必要最低限の内容を定めているにすぎないので、重要事項について説明を尽くしたとしても、民事上の責任を免れない可能性があります。例えば、宅建法上の重要事項とはなっていないが、買主が知っていれば当然買い控えたであろう情報を知っていたにもかかわらず、説明せずに契約に至った場合などは、民事上の責任が生じる可能性があります。
以上のとおり、宅建業法及び民事上の法的責任を免れるためには、少なくとも重要事項を説明しなければ、後日、法的責任を追及されるリスクがあります。しかし、重要事項さえ説明すれば十分というわけではなく、民事上の説明義務の範囲は事案ごとに判断されますので、仲介業者としても注意が必要かと思われます。