第1 はじめに

前回は、債権回収の場面で、一般的に問題となりそうな事態について、法的にはどのように対処するのが適切なのかという点について、説明しました。今回は、もう少し、細部に入って債権回収手段の具体的手続を注意点も含めてお話しします。

第2 相殺

債権者が債務者に対して、債権を有していると同時に、債務も負っているような場合、それらが同種の債権債務であれば、対当額において相殺できます(民法505条1項)。そして、これは時効を中断させる場合などとは異なり、単に意思表示をすれば足ります(同法506条1項)。

また、相殺の場合は、債権が前々回に述べたような短期の消滅時効にかかるのではないかといった心配も一切ありません。いったん債権債務の対立が生じさえすれば、債権成立から何年経っても、相殺は制限されないのです(同法508条)。

ただ、債権者が債務者に対して負う債務が不法行為に基づく損害賠償債務であるような場合には、相殺が禁じられています(同法509条)。

第3 債権譲渡

1 債権譲渡の方法

債務者がくせ者で頑張って回収しようとしても埒があかないという場合、その債務者からの回収を諦めて、債権を他の誰かに売却してしまうという方法もあります。

債権を売却するのは合意のみで可能だとしても(同法555条)、売却によって、債権者が移ったということを、債務者に主張するためには、債務者に対する通知か債務者の承諾が必要です。そして、債権譲渡の通知は、元の債権者からなさなければなりませんが(同法467条1項)、承諾は元の債権者に対してでも、新債権者に対してでもいずれでもよいとされています(判例)。なお、元の債権者が債権譲渡の通知を代理人を使って行うことは差支えありません。また、元の債権者が債務者の代理人として承諾をすることも可能です(判例)。

もっとも、債権者が債権を一人に売却した後、知らん振りをして別の人にも売却するといった事態も起こりえます。そこで、債権が特定の人に譲渡されたということを確実にし、債務者に対してのみならず、他の誰に対しても譲渡の事実を主張できるようにするためには、通知又は承諾の事実を書面化し、これに確定日付を得ておく必要があります(同法467条2項)。

2 具体的な手続

債権譲渡の通知や承諾に確定日付を得るには、内容証明郵便を使う方法と、公証人を使う方法があります。

(1) 内容証明郵便による場合

内容証明郵便は押印のある書面を最低3通同じものを用意する必要があります。郵便局保管用と自分用と相手への送付用の3通です。これらを郵便局に持って行って出すことになります。ただ、書面の形式に制限があることには注意してください(1行20文字、1枚26行等)。もっとも、平成13年から開始された電子内容証明制度では、上記制限は緩和されています。

(2) 公証人による場合

公証人による確定日付は、債権譲渡の承諾書面に確定日付をとっておこうとする場面でしょう。この場合、近くの公証人役場へ行き、確定日付を記入してもらえば足ります。予約などは必要なく、内容証明郵便のように何通も同じものを作る必要もありません。費用も700円ですみます。

3 債権譲渡特例法

債権譲渡の第三者に対する対抗要件は、上述したように確定日付ある通知又は承諾でしたが、平成10年に債権譲渡特例法が制定されました。

同法により、法人が金銭債権を譲渡した場合には、債権譲渡の登記をすれば、第三者に対する対抗要件を具備できることとなりました。