今回は、担保の一手段としての、動産譲渡担保についてご紹介したいと思います。

 「動産譲渡担保」とは、債務者が所有する動産をいったん債権者に売却したことにして売買代金相当額を借入し、そのうえで債権者から改めて賃借して利用する、という形態をとる担保権です。売買代金相当額の支払いが完了したらその動産に設定した譲渡担保権を抹消しますが、仮に債務者が返済を怠った場合には、当該動産を処分し(「処分型」)又は所有権を債権者に移転させることにより(「帰属型」)、残債務の清算に充てるという形で担保権の満足がはかられることとなります。

(動産譲渡担保については、当該動産の所有権は債権者に移転するものの、その占有及び利用権は債務者がひきつづき有する〔いわゆる「占有改定」による引き渡しが行われるのみ〕ことがほとんどであることが特徴です。)

 現行民法上、明文で認められているわけではないのですが、その使い勝手の良さから、実務上はしばしば利用される担保権の形態です。特に、事業用の動産以外にさしたる資産を持たない債務者(事業者)に対する金銭消費貸借契約の担保として、よく利用されているようです。判例上認められている譲渡担保の目的物としては、機械器具、販売目的の商品等の動産の外、手形小切手、株券等の証券、土地建物といった不動産があります。最近では、ゴルフ会員権(契約上の地位)、特許権、コンピューター・ソフトウェア、そして集合物(典型的には、倉庫に入っている在庫商品など、定期的に個々の構成物は入れ替わるものの、全体として一つの物と呼べる程度の特定性を有する物の集合をいいます)など、多くの動産が譲渡担保の目的物として利用されています。

 不況が報じられる昨今において、確実な債権回収を図るための担保権の設定については困難が伴うところですが、この「動産譲渡担保」を利用すれば、不動産等、いわゆる固定資産として担保権の目的となる資産を有しない事業者であっても、担保権付きの融資を受けられる可能性が出てきます。

 債権者に、事業資金の貸出に関してためらいがみられる場合には、借り手の側から積極的に、動産譲渡担保の提供を含んだ形での融資の申し込みを検討されてもよいかもしれません。

 なお、動産譲渡担保にともなう問題点として、①目的物の価額が残債務の価額を上回る場合に債権者に清算義務があるのかという点がありますが、この点は、判例により清算義務があると認められています。したがって、清算義務の点を、譲渡担保設定時に債権者ときちんと申し合わせをしておけば、残債務以上の価額を支払わされるという事態は防ぐことができます。

 また、特殊な場合として、株券が譲渡担保目的物であり債権者がその占有を有していた事例において、②債務の弁済と、譲渡担保目的物の債務者への返還は、同時に行われるべきか、という点が判例上問題となったことがありました。判例によれば、債務の弁済は目的物の返還より先に行わなければならないとされています。債権者が、債務の弁済を受け終わる前に担保権抹消の手続きをするのは過重な負担であるというのがその理由とされています。ただ、この見解によると、債務の弁済の後も債権者が当該担保目的物を転売等してしまうリスクが残ることになります。したがって、債権者が譲渡担保目的物を占有管理する場合は、このようなことが起こらないよう、設定契約において「債務の弁済終了後は直ちに目的物の担保権を抹消し、所有権は債務者に移転すること」を明記しておかれるのがよいでしょう。

ただ、返還すべき担保目的物を転売してしまう、というのは、いわば紳士協定に反する行為ですから、このようなことを強行しそうな債権者からはそもそも借り入れしない(または、譲渡担保権設定の申し入れをしない)、というのがより現実的な対策かもしれませんが・・・。

弁護士 吉村亮子