1 はじめに

 今回は、時間外労働・休日労働のお話をします。俗に言う残業ないし休日出勤のことですが、空残業をさせられている、休日にタダ働きさせられた等かかる事項が労働者とのトラブルに発展するケースが多く見られます。

 時間外労働・休日労働に関する正確な知識を持っていると、コンプライアンスを図ることができ、たとえ労働者から不平不満が出たときでも、明確な説明を行うことにより紛争を未然に防ぐことが可能となるのです。

 みんなが知っているようで、実は、余り知られていない事柄があるので、その点も含めて、説明したいと思います。

2 時間外・休日労働の意義

 時間外労働とは、1日又は1週間の法定労働時間を超える労働をいいます。したがって、仮に就業規則等で1日の労働時間を7時間と定めている会社で8時間労働させたとしても、時間外労働とはなりません。

 次に、休日労働とは、週休制の法定基準による休日(法定休日)における労働をいいます。労働時間については「始業及び終業の時刻」を就業規則で定めなければならないとされているのに対し、休日については単に「休日」を定めればよいとされていることから(労働基準法89条1号)、法定休日の特定までは法律上要求されていないと解されています。したがって、就業規則等に「休日は1週間に2日とする」とだけ定めてあり、1週間に6日労働させたとしても、週休制の法定基準たる1週間に1日の休日が充たされていることになり、休日労働は生じません。少なくとも法律上はそのような扱いとなります。ただし、行政監督上、週休制の趣旨に鑑み、就業規則等で休日をできるだけ特定するような指導方針がとられています。

3 時間外・休日労働の適用除外

 農業(※)、畜産・水産業の従事者、管理監督者(※)、機密事務取扱者、監視・断続的労務従事者(※)については、法定労働時間・休憩・休日に関する規定は適用されません(労働基準法41条)。

 ちなみに、(※)については、管理監督者は経営者と共に、法定労働時間等を超えて活動しなければならない企業経営上の要請に基づいています。また、機密事務取扱者についても、秘書その他の機密を取扱う職務が、経営者・管理監督者の活動と一体不可分である場合が多いことに基づいています。

(※)については、監視・断続的労務従事者が通常の労働者に比し、労働密度が疎であるため、法定労働時間等の規定を適用せずとも、その保護に欠けるところがないということに基づいています。

 なお、これらの者でも、深夜労働の規定(同法37条3項)は適用されることには注意してください(同法41条)。

4 時間外・休日労働の適法化要件

 法は、使用者に割増賃金の支払義務を課した上で、(※)災害その他避けられない事由により臨時の必要があり、行政官庁の許可を受けた場合(労働基準法33条1項本文)、(※)労使協定(三六協定)を結んで行政官庁に届出た場合(同法36条1項本文)には、時間外・休日労働が可能としています。

 (※)については、事態緊急のために、行政官庁の許可を受ける暇がない場合には、事後に遅滞なく届出なければならないとされています(同法33条1項ただし書)。そして、その届出につき、行政官庁が時間外・休日労働を不適当と認めるときは、その時間に相当する休憩・休日を与えるべきことを命じうるとしています(同条2項、代休付与命令)。

 (※)については、この協定を作成する際、時間外・休日労働させる必要のある具体的事由、業務の種類、労働者の数、延長できる時間、労働させうる休日、有効期間を定めて(労働基準法施行規則16条1項、2項)、書面で締結しなければなりません(労働基準法36条1項本文)。

 また、注意しなければならないのは、上記労使協定の有する効力は、労働基準法違反による刑罰を免れさせる効力(免罰的効力)にとどまるとするのが判例です。すなわち、三六協定を結んだだけでは、使用者が労働者に時間外・休日労働をさせうるという私法上の効力は生じないということです。使用者は、労働者が任意に時間外・休日労働に応じてくれれば、三六協定により、労働基準法違反が免罰されるので問題ありません。しかし、労働者が時間外・休日労働を拒否した場合、三六協定を締結していただけでは、使用者はどうすることもできなくなってしまいます。では、労働者に時間外・休日労働を命じて、私法上の義務を発生させるためには、何が必要なのでしょうか。この点につき、判例は、労働契約、労働協約、就業規則何れかで、「業務の必要あるときは、労働者に時間外・休日労働義務が発生する」旨の一般的な定めを置くことで足りるという立場に立っています(最判平成3年11月28日)。

5 限度基準

 では、三六協定を結べば、無制限に時間外労働が許容されるでしょうか 。それでは使用者との力関係で、立場の弱い労働者を保護できない、法はそう考えて、時間外労働に限定を加えようとしたのです。すなわち、厚生労働大臣は、労働者の福祉等の事情を考慮して、三六協定における労働時間の延長に限度基準を定めることができるとしました(労働基準法36条2項)。かかる規定に基づいて、次のような限度基準が設定されています(厚生労働省告知355号平成15年10月22日)。

期間     延長限度時間

1週間    15時間
2週間    27時間
4週間    43時間
1箇月    45時間
2箇月    81時間
3箇月   120時間
1年    360時間

 労使双方が、三六協定の内容が上記限度基準に適合するようにしなければなりません(同条3項)。また、行政官庁は、労使双方に対し、限度基準に関する必要な助言・指導を行うことができます(同条4項)。

 ただし、特別な事情が生じたときに限り、限度時間を超えて延長する労働時間を定める協定(特別条項付協定)を定めることができるとされています。

 特別条項付協定を締結するためには、?特別の事情があり、その適用が1年の半分を超えず、?労使間の手続の定めがあり、特別延長時間は必要最小限であること、が必要とされます。

6 割増賃金

 割増賃金(労働基準法37条)は、就業規則等で定められた労働時間・日を超えたかではなく、法定労働時間・週休制の基準を超えた労働についてのみ支払われます。つまり同基準内ではあるが、就業規則等の定めを超えた労働(法内超過)については、少なくとも法律上は割増賃金対象ではありません。ただ、週休2日制をとる会社において、法定休日が1日、もう1日は単なる休日として、後者の労働は休日労働にあたらないとして、割増賃金を支払わないという会社は稀でしょう。もしそのような対応をとるなら、就業規則等でどの休日が法定休日にあたるのかを労働者に周知しておかなければならないでしょう。

 割増率は、時間外労働が25%以上、休日労働が35%以上、深夜労働が25%以上であり(労働基準法37条1項ないし3項)、時間外深夜労働は50%以上、休日深夜労働は60%以上となります(労働基準法施行規則20条1項、2項)。

 なお、休日労働には時間外労働という概念がないため、休日労働が8時間を超えても割増率は35%以上のままです。

 割増賃金の算定上、除外される賃金として、?勤務内容と無関係な家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当(労働基準法37条4項、同法施行規則21条)、?結婚手当等突発的事由により臨時に支払われる賃金(同法施行規則21条)、賞与や勤続手当、制皆勤手当、能率手当等1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(同法施行規則21条)があります。