こんばんは。長谷川です。

 本日、東京都労働相談情報センターの主催で、パワハラを中心とする講演をしてきまして、先ほど、事務所へ戻ってきました。
この講演、今年の3月にもパワハラや職場いじめを中心とした内容で行ったので、今回が2回目でした。

 パワハラというのは、セクハラと違い、適切な業務上の指導/監督や労務管理との差違が分かりづらい部分があります。

 その為、被害の対象となる従業員の立場からも自分が受けている行為がパワハラとは思わずに我慢すべきだと我慢し続けてメンタルヘルスを悪化させてしまう傾向が高いですし、企業側からも適切な指導/監督或いは労務管理として行っているつもりで(つまり、違法性の意識を持ちづらい)やり過ぎてしまうという不幸な事態が起こりがちです。

 また、セクハラについては、雇用機会均等法で、企業に対して防止措置義務が定められていますが、パワハラについてはそこまでの規定はない為、どうしても企業内におけるパワハラ防止措置や対処措置の設置については、セクハラに比べて遅れている印象を受けます。

 でも、雇用契約に付随する義務として企業が労働者に対して良好な職場環境を保全する義務があることは当然ですし、最高裁平成12年3月24日判決においても「労働者が業務遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して、労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っている」旨明示されています。

 従って、企業がパワハラを放置しておくと、たとえパワハラが使用者意思に基づかないものであっても、賠償義務を負うことになります。ちなみに、パワハラ問題で会社がいくらぐらいの賠償義務を負うことになるかと言いますと、これは正確には事案にもよりますので、一概には言えないということになります。考慮するポイントとしては、例えば、パワハラ行為が?会社主導か否か、?行為の悪質性(行為が行われていた期間や行為の態様/頻度といったものが特に重要であろうと思います)、?死亡・精神状態の悪化等、被害の重大性といったところが大きなポイントでしょう。

 ただ今回の講演の為に作成した過去20年内の割と有名なパワハラ事件14件の平均を取ってみたら、平均は540万円ぐらいでした。

 誤解を招かないように、重ねて言いますけど、これは多数の事例のうちの14件の平均でしかありませんし、割と有名な事案ということは被害の態様が重い(=自殺や重度の精神疾患に罹患してしまったというケースが多い)という傾向がありますので、当然に会社の負担する慰謝料も多額になる傾向があります。(ちなみに私がピックアップした14件のうち会社の慰謝料額として認められた下限額は50万円で、上は3000万円超でした。)

 だからこの平均額は、雑談程度のつもりで聞いて下さいね。

 とはいえ、会社のリスクコントロールという視点から考えると、決して軽視できる金額ではないですよね。

 しかも現実に裁判なんか起こされたら、負担はこの賠償費用だけでは済みません。裁判にかかる弁護士費用もありますし、裁判継続中、その対応を迫られるという負担もあります。業務パフォーマンスも低下しますし、パワハラが起きるような環境の会社にいたいと思う人はいませんから、有能な人間から流出してしまいます。また企業評価や社会的信用の失墜という危険もあります。

 だからこそ、パワハラについて社内で定期的に研修を行うことが必要ですし、起こってしまった時の為に社内での相談窓口の設置やパワハラの調査手続きを制度化することも必要です。

 特に調査手続きの不備により、加害者から訴訟を起こされるリスクも考えると、調査手続き自体もきちんとしたものを作る必要があります。どういうことかと申しますと、被害者保護を重視する余り加害者への適正手続きの確保に欠けてしまい、結果的に企業側が下した懲戒処分等が違法とされてしまう恐れがあるということです。

 大学内のパワハラを巡る問題で、大学側が加害者への懲戒処分等を行った中に二重処罰禁止の原則に反する違法な措置があったということで、大学側に対して加害者へ慰謝料の支払いをするよう命じた事例があります(東京地裁平成17年6月27日判決)。

 こういう予防措置や対処措置の設置という、いわば事前に費用をかけることについては、企業の方々には前向きに考えていただけないこともあるんですが、実は、事前にかかる費用と事後(=問題が起きてしまった後)にかかる費用を比較したら、絶対事前にかかる費用の方が安いんです。

 「適切なリスクコントロールは、結果的に一番経済的」という点からも、是非、社内におけるパワハラ防止措置/対処措置の設定をご検討下さい。

 おしまい。

弁護士 長谷川 桃