セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)は、一般的に対価型セクハラと環境型セクハラとに分類できるとされており、厚生労働省が出している「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年10月11日厚労省告示第615号)においても、この二つの分類が用いられています。

 対価型セクハラとは、職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けることを指し、例えば、上司に胸を触られて、拒絶したら遠くに転勤させられた、というような場合です。
 これに対して、環境型セクハラとは、職場において行われる性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなり、その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指し、しょっちゅう上司がいやらしいことを言って絡んでくるので、その対応が苦痛で仕事が手につかない、というような場合です。

 セクハラ行為が、業務中や業務の一環といえる時間にあった場合は、その行為を行った人だけでなく、使用者も使用者責任や債務不履行責任を問われる可能性があります。特に、環境型セクハラの場合、セクハラ行為をしている本人にはそれほどの悪気がない場合もありますので、注意が必要です。

 例えば、市役所の同じ部署での歓送迎会や暑気払い会の集まりで、女性職員が、係長から「結婚しろ」「子どもを産め」「結婚しなくてもいいから子どもを産め」と言われたり、直属上司宅で開かれたバーベキューパーティで記念撮影をする際に、係長から自分の膝に座るように指示され、嫌がると腕を掴まれて指示通り座らされ、抱え込まれて「不倫しよう」と言われたり、そのパーティでスナップ写真を撮影しているときに係長から「色っぽいよ」と言われたり、業務に関連する懇親会の際に、係長が独身の男性職員に対して、その女性職員を指さしながら「うちにいいのがいるから」と言ったりした、という事案で、裁判所は、その係長の行動はどれも女性職員に対する違法な権利侵害であって環境型セクハラにあたると判断し、女性職員から、セクハラ行為を行った係長と、セクハラ被害の申告があったにも拘らず女性職員及び係長に対し何の措置もとらなかった課長に対して行われた慰謝料請求を認めたという事例があります(横浜地判 平成16.7.8)。

 本件で係長の行った行為を見てみると、さすがに、膝に座らされて「不倫しよう」は完全にアウトだと思いますが、「結婚しろ」「色っぽいよ」「うちにいいのがいるから」という発言については、おそらく、言った本人にそれほどの悪気はなく、言われた側の性格によっては「大きなお世話!」で済む場合もあるかもしれません。
 とはいえ、係長に命じられた慰謝料は120万円、課長は80万だったそうですから、宴会での発言や行動には、十分気をつけた方がいいでしょう。

弁護士 堀真知子