1 商品知識、営業ノウハウは、競業避止義務の対象になるか

 この事件では、原告であるアートネイチャーと被告である元従業員との間で、雇用時に「競業避止義務」に関する合意が交わされていました。

 そして、その競業避止義務の対象に、従業員が原告会社に勤務していた時に得た「商品知識、接客サービスの方法等の営業ノウハウ」も含まれていたのです。そこで、商品知識や営業ノウハウまでも競業避止義務の対象にできるのかどうかが争われました。

2 東京地裁平成17年2月23日判決

 まず裁判所は、

・退職後の競業避止に関する合意は、その性質上、十分な協議がなされずに締結される場合が少なくない。
・競業避止義務は、従業員の有する職業選択の自由等を著しく制約する危険性を常にはらんでいる。

などといった事情を踏まえ、競業避止義務の範囲については、

「従業員の競業行為を制約する合理性を基礎づける必要最小限の内容に限定して効力を認めるのが相当である」

としました。

 分かりやすく言えば、雇用主である会社は、競業避止義務の範囲をいかようにも定めて従業員にこれを課すことができるわけではないですよ、従業員の職業選択の自由を侵害しないような配慮が要りますよ、ということです。したがって、競業避止義務の範囲は、従業員の職業選択の自由を不当に制約しない合理的な範囲にとどめなければなりません。

 では、これを前提に、商品知識や営業ノウハウ等を競業避止義務の対象とすることは、従業員の職業選択の自由等との関係で合理的と言えるのでしょうか。

 この点、判例は、競業避止義務の対象について、

「従業員が、使用者の保有している特有の技術上又は営業上の情報等を用いることによって実施される業務が競業避止義務の対象とされる」

としたうえで、

「従業員が就業中に得た、ごく一般的な業務に関する知識・経験・技能を用いることによって実施される業務は、競業避止義務の対象とならない」

としました。
 そして、同判例は、本件の商品知識、営業ノウハウについて、

「まさに従業員が日常的な業務遂行の過程で得られた知識・技能であって、…従業員が自由に利用することができる性質のものである」

と結論づけました。

3 まとめ

 この裁判例から読み取るべきメッセージは、次のように整理できます。

1)競業避止義務の対象は、従業員と合意書を交わしたとしても、自由に定められるものではない。従業員の職業選択の自由等を不当に制約しないよう、必要最小限にとどめなければならない。
2)競業避止義務の対象にできるのは、会社が保有している”特有”の技術上、営業上の情報に限られる。
3)従業員が日常の業務の過程で修得できる一般的知識・技術は、競業避止義務の対象に含めることはできない。
4)商品知識や営業ノウハウであっても、他社にないような特有の技術・ノウハウであれば、競業避止義務の対象にできる余地がある。