第1 はじめに
私たちが誰かに対して何らかの権利を有していても、その相手が任意に応じてくれなければ、国家の力を借りて強制的にその権利を実現しなければならなくなります。
この権利実現手続は、大別して、強制執行、担保権の実行、形式的競売、財産開示等がありますが、今回は強制執行のうちの債権執行について、触れてみたいと思います。
強制執行には、債権者の有する請求権が金銭債権である場合の権利実現手続である金銭執行と、債権者の有する請求権が非金銭債権である場合の権利実現手続である非金銭執行があります。そして、金銭執行には、換価してお金にする対象ごとに、不動産執行、準不動産執行、動産執行、債権その他の財産権執行に分けられ、債権執行は最後に挙げたものなのです。
つまり、債権執行とは、金銭債権を有する債権者が、国家機関たる執行裁判所関与の下、債務者保有の債権を差押え、これを換価して債務の弁済に充てる手続をいいます。
第2 申立手続
1 債権執行申立
まず、債権者が、執行裁判所に対し、債務者が第三者に対して有する債権を差押さえて、自分以外の者へ弁済を禁じるよう申立てることが必要です。この場合の第三者は第三債務者と呼ばれています。また、債権者が債務者に対して有する債権は請求債権といい、債務者が第三債務者に対して有する債権を被差押債権といいます。
具体的には、債権差押命令申立書に、債権者・債務者・第三債務者の氏名・住所及び被差押債権に関する事項等を記載し(民事執行規則21条、133条)、申立手数料としての収入印紙を貼った上で(民事訴訟費用等に関する法律3条)、執行裁判所に提出します。
執行裁判所とはどこになるかについては、債務者の所在地の地方裁判所となりますが(民事執行法144条1項前段)、債務者の住所・居所がわからないような場合には、第三債務者の所在地の地方裁判所となります(同条項後段、2項本文)。
なお、請求債権額に執行費用を加えた額が被差押債権の額に充たない場合でも、被差押債権全額を差押えることができます(民事執行法146条1項)。
2 陳述催告申立
債権者は、被差押債権があると知っているからこそ、その債権を換価して請求債権の弁済に充てようとしているわけですが、被差押債権は他人が別の他人に対して持っている債権にすぎません。したがって、債権者がこの被差押債権に関し、詳しい情報まで有していないことが大半でしょう。
ところが、債権者は、被差押債権に関する情報を正確に得ておかないと、この債権に期限・条件が付されていたり、他にも競合する債権者が大勢いたりといった状況も考えられ、それにより、その後の換価手続も変わってくるので、上記情報を予め入手することが極めて重要となるのです。
そこで、かかる要請を受けて、債権者は、裁判所書記官に対し、第三債務者に被差押債権に関する事項を書面で陳述すべき旨の催告(これを陳述催告という)を申立てることができるとされています(民事執行法147条1項、民事執行規則135条)。
ここで、催告すべき事項として、被差押債権の存否、額、弁済の意思の有無、優先債権者の有無・名称、他の差押・仮差押の有無等が挙げられています(民事執行規則135条1項)。
したがって、通常の実務では、債権差命令申立書と共に陳述催告申立書が提出されているのです。
そして、陳述催告を受けた第三債務者は、差押命令が送達されてから2週間以内に催告を受けた事項について書面で回答せねばならず、これを怠ったり、虚偽の回答をすると損害賠償責任を負う虞があります(民事執行法147条1項、2項)。
第3 換価手続
1 差押命令の効力
執行裁判所により差押命令が第三債務者に送達されると、第三債務者は債務者に弁済できなくなり、債務者も被差押債権を処分することはできなくなります(民事執行法145条1項、4項)。
そして、差押えが金銭債権に対してなされた場合、差押命令が債務者に送達されてから1週間を経過すると、債権者は被差押債権の取立てができるようになります(同法155条1項)。
そうだとしても、条文の文言からもわかるように債権を取立てることが「できる」だけで、この段階では第三債務者に債権の支払を命ずる効力は生じていません。つまり、第三債務者が任意に弁済してこない限り、差押債権者の請求債権の満足を得られません。
2 取立訴訟
そこで、債権者が採りうる方法として考えられるのは、第三債務者相手に取立訴訟を提起することです(同法157条)。
そして、この取立訴訟の認容判決を得て初めて、債権者は第三債務者に対し、被差押債権の支払を強制できるわけです。この場合の訴訟は、口頭弁論なしに裁判できるとされています(同条2項)。
上記場合、他の債権者がいなければ、認容判決は通常の給付訴訟判決の場合と同様となりますが、他にも差押債権者がいたり、配当要求をした債権者がいたりすると、第三債務者は供託の方法による支払を命ぜられることになります(同条4項・156条2項)。
3 転付命令
他にも債権者がいて、差押えが競合すれば、差押えの先後を問わず、請求債権額に応じて按分比例額を受けるに止まります(債権者平等の原則)。
そこで、債権者が、被差押債権を独占したいと考えれば、差押命令申立と併合して、転付命令申立も行っておく方法があります。
転付命令申立は、執行裁判所に対し、転付を受ける債権の金額等を明示した申立書を提出する必要があります(同法159条1項、民事執行規則133条2項)。したがって、券面額のない将来発生分の給料債権などに対して転付命令を申立てることはできません。
ただ、債権者は転付命令により、被差押債権の移転を受けると、券面額の限度で弁済されたとみなされます(同法160条)。つまり、実際には債権者は金銭の支払を受けてはいないのに、代物弁済的に請求債権が消滅するので、第三債務者の信用リスクをかぶることになります。
4 譲渡命令、売却命令、管理命令
被差押債権が期限付、条件付、反対給付にかかる等取立てが困難な場合、債権者は、執行裁判所に、支払に代えて被差押債権を譲渡すべき命令、執行官に債権を売却させる命令、管理人を選任して債権を管理させる命令等を申立てることができます(同法161条1項)。