1 高級ブランドのバッグをレンタル

 今、グッチ、エルメス、プラダなどの高級ブランド・バッグのレンタルが急成長しているそうです。

 例えば、石井康裕さんという方が代表をつとめているORB(オーブ)という会社では、2007年9月からこのサービスを開始し、特に、昨年の金融危機以降、急速に売り上げが伸びているそうです。
 20万円から30万円程度のバッグであれば、1か月19,800円、1週間なら6,800円でレンタルできるとか(プレジデント2009年8月31日号、プレジデント社)。

2 どうしてこのようなビジネス・モデルが成立するのか

 このビジネス・モデルが成立するためには、このサービスの利用者であるお客様に、いわゆる「所有欲」がないことが前提となります。レンタルですから、「自分のモノ」にはならないからです。
 もっとも、この所有欲というのは絶対的なものではなく、世の中の景気や所得の増減により影響を受ける相対的なものと見ることもできます。例えば、給料をたくさんもらっていた時は、高級ブランドを購入していた。しかし、景気が悪くなって給料もボーナスも大きくカット。仕方がないから、買うのはやめてレンタルにしておこう……、などというように、所有欲は、その人の経済事情や景気によってある程度変化しうるものと言えるかもしれません。前出のORBの例でも、金融危機以降急成長しているという事実とも符合します。

 次にクリアーされるべき必要条件は、当然ですが、購入するのに比べてレンタルの方がずっと割安でなければなりません。購入する場合とあまり変わらないのであれば、レンタルするより買ったほうがいいですから。
 この点で気になるのが、20万円から30万円くらいの高級ブランド・バッグをレンタルする場合に、ORBが設定している1か月19,800円という価格設定です。1か月約2万円のレンタル料がかかるわけですから、10か月くらいレンタルすると、20万円くらいのバッグが買えてしまうくらいの出費になります。1年もレンタルしてしまうと、買った方がお得なはずです。
 したがって、レンタルしたいと考えるお客様の動機として、同じバッグを長期使用したくない、短期間でバッグと取り換えたいという前提がなければなりません。このようなケースであれば、確かにレンタルの方が安いです。

 さらに、レンタルするお客様にとって、レンタルに伴うリスクが低いことが必要となります。いくら30万円のバッグが1カ月19,800円でレンタルできるといっても、わずかなキズや汚れで弁償させられたら、リスクは大きいですよね。したがって、このビジネス・モデルを成立させるためには、お客様のサービス購入を委縮させない程度まで、このリスクを低減させてあげないといけないでしょう。
 先ほどのORBの場合は、よほどひどい汚れやキズでない限り、原則として弁償を求めないことにしているそうです。
 では、紛失した場合はどうなるのでしょうか?

 この場合は、さすがに弁償してもらわないと、ORBとしても割が合いませんよね。でも、この点、ORBでは、バッグの価格全額について弁償を求めるということはせず、例えば、20万円から30万円相当のバッグであれば、39,800円の補償額の支払いですむそうです(プレジデント2009年8月31日号、プレジデント社)。
 そうすると、万が一、お客様がバッグを紛失してしまっても、39,800円を支払えば足りるわけですから、お客様のリスクは相当程度軽減されているといえるかもしれません。
 しかし、私の疑問は、ORB側のビジネス・リスクです。
 お客様の中に悪い人がいると、例えば、紛失していないのに紛失したと嘘を言って39,800円支払えば、20万円のバッグを自分のものにできてしまいます。いくらバーゲン・セールでも、ここまで安くはなりませんからね。
 こういうことが多発すると、今度はORB側が大きな損害を被ります。そのような問題が発生していないというのであれば、お客様はみなさん真面目な人が多いということなんでしょうかね……。

3 男性客に「高級腕時計のレンタル」というビジネスは成立するか?

 ところで、女性客に対する高級ブランド・バッグのレンタルというビジネスが成立するのであれば、男性客に対して高級腕時計のレンタルというビジネスも成り立つのではないか、という思いがよぎります。

 この点、さきほどのORBの石井代表は、おもしろい指摘をしています。同氏は、男性客に高級腕時計のレンタルを成立させることは困難とみているそうです。その理由がおもいろいんです。

 「男性のほうが所有することに価値を見出す傾向がある」
(プレジデント2009年8月31日号、プレジデント社)

 このコメントが正しいとすると、男性は女性よりも所有欲が強いということになります。本当にそうならおもしろいですよね。
 でも、私はそんなことはないと見ています。合理的な思考する男性であれば、レンタルの方が経済的であれば、十分レンタルで利用することもありうると思います。
 ただ、男性が果たして腕時計を頻繁に取り換えたいと考えているかどうか。同じ時計を毎日つけることに抵抗がなければ、買ってしまったほうが結果的には安上がりになります。
 問題は、腕時計を週替わり又は月替わりで取り換えたいと考える男性客のニーズがあるかどうかでしょう。