第1 国際協調主義

 植民地からの独立ラッシュにより、次々と多数の国が生まれていった時代を過ぎ、やがて第2次世界大戦も終わり、そこからさらに60年以上も経過しました。そして、現代社会では、かつてのように、自国の繁栄のためには、多国を敵とみなすような風潮はなくなりました。互いに協力し合って人類の最大幸福を図っていこうする国際協調主義が各国で叫ばれるような時代が訪れたのです。日本においても、憲法98条2項で国際協調主義を唱っています。

 では、企業の再建・清算に関して、かかる国際協調主義を受けて、現在の我が国は、どのような法制を敷いているのでしょうか。
 前回は、企業再建の国際化に関し、国内処理手続の対外的効果の問題を取り上げました。今回は、もう一つの問題である外国処理手続の対内的効果について述べていきます。

第2 外国処理手続の対内的効果の問題

1.外国処理手続の効力拡張

 現行法は、外国処理手続の効力をそのまま国内において認める立場をとらず、日本の裁判所が承認した手続に限り、国内において様々な援助処分をなしうるという立場をとっています(外国倒産承認援助法1条)。

2.管轄

 外国再建・清算手続の承認援助事件は、東京地方裁判所の専属管轄とされています(同法4条)。

3.承認申立

 外国管財人(外国管財人が選任されていない場合は債務者)は、債務者の住所、居所、営業所、事務所が外国処理手続の申し立てられている国にある場合、東京地方裁判所に対し、当該外国処理手続の承認を申し立てうるとされています(同法17条1項)。

4.援助処分

 裁判所は、国際的な経済活動を行う会社に対し、外国で申し立てられた再建・清算手続の効力を日本国内で適切に実現し、もって当該会社の国際的な再建・清算を図るために、様々な援助処分をなすことができると定められています。

 まず、裁判所は、上述したような承認援助手続の目的達成に必要と認めれば、日本にある会社財産に対して既にされている強制執行・仮処分等について、中止命令を出せます(同法25条1項)。
 また、裁判所は、必要と認めれば、日本にある会社の業務及び財産に関し、処分禁止、弁済禁止その他の処分をすることができます(同法26条1項)。
 そして、裁判所は、必要と認めれば、全債権者に対し、会社財産に対する強制執行等を禁止する命令を出せます(同法28条1項)。
 さらに、裁判所は、必要と認めれば、日本にある会社の業務及び財産に関し、管財人による管理を命ずることができます(同法32条1項)。この場合に選任される管財人は承認管財人と呼ばれます(同法2条1項9号)。

5.複数手続競合の際の扱い

 裁判所は、外国管財人等から、外国処理手続の承認申立がなされたとき、当該外国処理手続がその外国で開始されていれば、申立棄却事由がない限り、承認決定をすることになっています(同法22条1項)。
 そこで、その申立棄却事由に関し、複数の再建・清算手続が競合した場合の考え方が重要となってきます。

(1) 日本では、外国倒産承認援助法が、複数の処理手続の並行を容認せず、1人の債務者に1つの手続しか認めない立場をとっています(一債務者一手続主義)。

(2) 裁判所は、外国処理手続承認の申立がなされた場合、同じ会社につき国内処理手続開始決定のあることが明らかになれば、原則として、申立を棄却しなければなりません(同法57条1項柱書、国内手続優先の原則)。
 ただし、当該外国処理手続について、会社の主たる営業所が当該外国にあり、援助処分をすることが債権者一般の利益に適合し、日本国内の債権者の利益が不当に害される虞がなければ、例外的に承認の決定がなされます(同法57条1項各号)。
 上記場合、裁判所は、当該国内処理手続については、中止を命じなければなりません(同法57条2項本文)。

(3) 裁判所は、外国処理手続承認の申立がなされた場合、同じ会社について既に承認決定された他の外国処理手続があり、会社の主たる営業所が当該他の外国にあれば、申立は棄却されます(同法62条1項1号、主手続優先の原則)。
 また、裁判所は、外国処理手続承認の申立がなされ、同じ会社について既に承認決定された他の外国手続がある場合で、会社の主たる営業所が当該他の外国にはないものの、援助処分をすることが債権者一般の利益に適合しなければ、申立は棄却されます(同法62条1項2号)。

 上記で会社の主たる営業所が当該申立にかかる外国の方にあれば、主手続優先の原則から、従たる手続にすぎない既に承認決定された他の外国手続は中止されることになります。また、会社の主たる営業所が当該申立にかかる外国になく、既に承認決定された他の外国にもない場合でも、援助処分をすることが債権者一般の利益に適合すれば、承認決定がなされます。その場合には、やはり、従たる手続にすぎない既に承認決定された他の外国手続は中止されることになるのです(同法62条2項)。