1.事件の概要

 原告は、被告会社からパチンコ攻略法に関する情報提供を受け、その対価として合計約700万円に及ぶ金員を支払いました。

 ところが、どの情報に基づいてパチンコをしても、成果が出なかったということで、消費者契約法違反を理由に契約の取消、公序良俗違反を理由に契約の無効をそれぞれ主張し、全額の返還を求めた裁判です。

2.裁判所の判断

 この裁判では、原告の主張が全面的に認められるという原告側全面勝訴の判決が下っています。
 神戸地裁尼崎支部(平成21年2月27日判決)の判断のポイントは、以下の通りです。

1)消費者契約法違反のポイント

 消費者契約法4条1項2号は、物品、権利、役務……に関し、不確実な事項につき断定的判断を提供し、それに基づいて消費者が契約の意思表示をした場合には、当該契約を取り消せる旨定めています。

 そして、この裁判では、消費者契約法違反であるという原告の主張が認められました。そのポイントを整理すると、以下の通りです。

① 被告会社は、広告や会社の資料等で、一般的には知られていない特別なパチンコ攻略情報を被告会社が持っているかのように原告を誤信させたこと。

② 被告会社は、原告に対し、上級会員になればなるほど確実で特別な情報を提供できると強調して巧妙に誘導し、11回にも及んで多額の支払いをさせたこと。

 →被告会社は、原告に対して、断定的判断の提供をし誤信させたと評価できる。

2)公序良俗違反のポイント

 また、原告は、消費者契約法違反のほかに、公序良俗違反(民法90条)を理由とする契約の無効も併せて主張し、こちらの主張も認められております。
 裁判所の判断のポイントは、

① 原告が購入した情報は、正当な科学的根拠が薄い情報であること。
② 情報料が高額であること。
 →公序良俗違反である。

3.判例解説

1)消費者契約法違反について

 ここでは、広告や会社の営業用資料が断定的判断を提供したことの証拠となっています。

 特別なノウハウを被告会社が持っており、しかも攻略法としての情報の精度が高い(そうでなければ、誰も買いませんね)ことを唄う言葉が記載されていたことがうかがえます。

 断定的な情報を与えたか否かは、特に口頭による場合、水掛け論になるのですが、本件では、広告や資料が裁判所の判断に大きな影響を与えていると思われます。

 また、取消要件のポイントとして注意していただきたいのは、確実とは言えない情報を確実であるかのように断定し相手を誤信させれば、消費者契約法に基づく取消ができてしまう点です。情報を購入した人の「技術」は関係ありません。

 したがって、「情報自体は正しいが、その人の腕が悪かったんだ」という言い逃れは通用しないということです。

2)公序良俗違反について

 ここで問題となっているのは、情報の価値と消費者が支払った対価のバランスです。

 裁判所の判断では、被告会社の提供した情報がかなり不確実なものであるという評価を受けているのに対し、原告が情報提供料として支払った総額が約700万円にも及ぶんですね。基幹的には、約2ヶ月足らずの取引だったようです。

 そもそも、被告会社からすれば、確実な情報であることを前提に価格設定しているので情報の価値に見合っているということになるかもしれませんが、裁判所の判断ではその前提が崩れているわけです。

 そうすると、たいした価値のある情報とは言えないのに価格が高額であるということになって、いわゆる”暴利”と評価され、公序良俗違反という判断になったものと思われます。

 ただ、そうだとすると、情報料が高額でなければ、公序良俗違反という認定にはならなかった余地も残しております(もっとも、消費者契約法違反の問題は別ですが)。

3)ビジネスモデルの問題点

 この裁判は、パチンコ攻略法に関するものですが、似たようなビジネスモデルに、競馬・競輪攻略法なんてものもあるようです。実際にあるかどうか分かりませんが、そのうち、宝くじ攻略法なんていうのも登場するかもしれません。

 通常、私たち弁護士が相談企業から契約書のチェックを依頼されることは多いのですが、この種の事案では、契約書以前の問題として、ビジネスモデル自体に問題があります。
 ”ベンチャー”という言葉も日本ですっかり定着した観があり、新しいビジネスモデルが次々誕生していますが、その中には、大きく分けて

① そもそもビジネスモデル自体に違法性がうかがえるもの。
② ビジネスモデル自体は問題ないが、その具体的スキームに違法性がうかがえるもの。

 があります。

 パチンコ攻略法などというものは、おそらく不確実な情報を確実なように誤信させないと、ビジネス自体が成立しにくいと思われますので、スキームのレベルではなく、ビジネスモデルそれ自体が破綻しているように思います。

 契約書チェックだけではなく、特に新しいビジネスモデルの場合は、ビジネスモデル自体の適法性や具体的スキームの適法性についても、しっかり専門家に相談したほうがよいと思います。