相談内容

 大規模な集中豪雨の影響で賃貸物件にもさまざまな影響が出ています。部屋の中に置いていたものなどや地下の駐車場に駐車していた自動車に被害が出たことに関して、浸水に対する責任を問うような問い合わせもあります。
 今回の集中豪雨は想像以上の被害になっており、被害の数も多く責任を求められても負担しきれません。賃貸物件の賃貸人が、集中豪雨に関して責任を負うようなことがあるのでしょうか。

回答

 集中豪雨やそれにともなう土砂災害などについて、まず思いつくのが不可抗力であるから、責任を負うことはないという結論ではないでしょうか。不可抗力による免責というのは、契約書への記載の有無にかかわらず、法の原則として受け入れられている結論でもあります。

 しかしながら、災害の際に、不可抗力であったから免責であるとすべてのトラブルが解決されているわけではありません。例えば、あらかじめ予測できるはずであった災害などによる影響などについて責任が免除されていない裁判例もあります。

 例えば、名古屋地裁平成28年1月21日判決においては、5年前の集中豪雨において浸水した地下駐車場を貸し出すにあたって、当該集中豪雨の影響を認識していた賃貸人の責任として、契約締結時に過去に集中豪雨のために浸水し、駐車されていた車両にも実際に被害が生じた事実を告げる義務を負うというべきと判断され、損害賠償責任が肯定されています。

 この裁判例では、不可抗力であることを理由に免責されるべきとの反論に対して、契約締結前の説明義務に関するものであること、説明が尽くされていて借りていなかったとすれば因果関係も否定されないことを理由に、不可抗力を理由とした免責を認めませんでした。さらに、自動車を移動させなかったことについて、過失相殺すべきであるとの主張についても、完全に排斥されています。集中豪雨のような極限的な状況では、損害を軽減させようと試みることが、被害の拡大につながる場合もあるため、損害軽減義務を容易に認めることもできないという事情もあるのでしょう。

 一方で、住居兼事務所であった賃貸物件に専有部分とつながるバルコニーからの浸水が生じ、居室内の動産類が被害を受けたとして請求された事案について、バルコニーの清掃等の義務は賃貸人にはなく、通常想定しがたい大量の雨水の貯留であったことを理由に賃貸人の責任を否定しました(東京地裁平成27年3月25日判決)。

 後者の裁判例は、一般的な感覚や結論と相違ないですが、前者の裁判例では賃貸人の責任が肯定されています。判断を分けた重要なポイントは、通常生じがたいまたは予測できた被害であるかという点が挙げられます。前者の裁判例では、5年前の集中豪雨における被害を賃貸人が認識していたということが結論に大きな影響を与えています。このたびの集中豪雨における被害については、想定外だったとしても、次回の被害は想定外といえなくなる可能性があります。

 例えば、東京地裁平成28年12月8日判決においては、重要事項説明書に「本件不動産付近に局地的集中豪雨が発生し、これにより本件建物に浸水被害が生じたため、本件建物に集中豪雨対策として排水逆流防止弁を追加的に設置した」旨記載されていた事例において、賃貸人の責任を否定する結論が導かれています。

 今回、被害が生じた地域においては、今回の被害が予測できなかったとしても、今回の集中豪雨による被害を認識している状況で賃貸することになる以上、今後の契約においては、重要事項説明書などにしっかりと被害の状況などを踏まえた記載を行っておくことが、免責されるためには重要といえるでしょう。