相談内容

 建物内の設備に不具合が生じており、物件の保存のために修理する必要が生じました。室内への入居と修理中の立ち合いを求めるために連絡したところ、大した不具合ではないので立ち合いたくないといわれていました。修理に要する時間は短い見込みであることを伝えて、渋々承諾を得て修繕したところ、思いのほか時間がかかってしまいました。入居者から、立ち合いにかけた時間を賠償するよう求められているのですが、応じる義務があるでしょうか。

回答

 賃貸物件では、長期の利用をしているうちに、小さな不具合が重なったり、メンテナンスを継続して設備を維持したりするために、部屋内の設備に対する配慮をしなければならない場面があります。

 退去済みの部屋であれば、その間に修繕を完了させればよいのですが、入居中の物件の場合、入居している賃借人への配慮を欠かすことはできません。

 今回のご相談でも、入居中に生じた室内の設備に関する不具合について、修繕のために入室し、その間立ち合いを求め、入居者の住環境への配慮をしています。しかしながら、入居者自身にとっては、具体的な生活上の不利益が生じていない場合には、立ち会うことを時間の無駄と感じることも残念ながら見受けられます。

 さて、このような場合における法律関係はどうなるのでしょうか。

 賃貸人としては、自らが所有する賃貸物件の設備において不具合が生じているという状態であり、自己の所有物の修理を欲している状態です。一方、入居者の方は、居住しており、その空間には、プライバシー性の高いものや自己に無断で入室することは認める必要がありません。要するに、入って直したいという利益と、入れたくないという利益が衝突している場面といえます。

 民法は、賃借人から賃貸人に対して、修繕請求ができることを定める半面、賃貸人にも賃貸物件の保存に必要な修繕の権利を与えています。つまり、賃貸物件やその設備に不具合が生じている場合には、賃借人の望みにかかわらず、賃貸人が修繕したいときに修繕する権利を与えており、賃借人はこれを受忍しなければならないものとされています。

 とはいえ、賃借人の住居に無断で入る権利まで許容すると、プライバシー侵害や住居侵入の状態になることになってしまいます。そのため、賃貸人による修繕請求権の限度としては、修繕請求を行い、これに応じない場合(例えば、一時的な退去を求めることも想定されます。)には、修繕に協力する義務に違反したものとして、賃貸借契約の解除事由になると考えられています。

 相談のように、立ち合いに応じてもらえたものの、当初の想定よりも時間がかかったとしても、建物の保存のために必要である限りは、賃借人には修繕に応じるべき義務がある以上、たとえ立ち合いに時間を要したとしても、賃貸人が違法な行為を行っているものではなく、賃借人への賠償義務が生じるものではないと考えられます。

 修繕の際に常に立ち合いを求めることが一般的となっていますが、法的に立ち合いがなければ修繕は実施できないのかといわれると、そうとまでは言えません。確かに、プライバシーの侵害などは生じうる以上、入居者としては立ち合っている間に作業を行うことを希望することが多いとは思われますが、この利益を入居者が放棄することは可能です。賃貸人としては、後日の紛争を避けるために立ち会っておいてもらうほうが安心であるとは思われますが、立ち会う機会を与えた場合に、これに応じることなく、勝手に入ってやっておいてくれという場合には、修繕の実施は可能ではあります。とはいえ、後日の紛争を避けるためには書面等で立ち合いが不要である旨の同意は取得しておくべきでしょう。