相談内容
物件内での自殺が生じました。その後はあらかじめ説明の上、事故後4年間で、2人に入居してもらい、近隣でも過去の自殺について話をする方はいなくなっていたので、説明する必要がなくなったと判断し、以降の入居者には説明することなく入居してもらいました。
入居者は、ネット上で物件で過去に自殺があったことを知ったようで、事前の告知がなかったことにクレームを述べ、賃料の減額を求められています。減額に応じるべきなのでしょうか。
回答
物件内での自殺が生じた場合、いわゆる「事故物件」などと呼ばれ、入居前に説明をしなければならないとされています。
物件内での自殺は、通常であれば賃借することを嫌悪し躊躇(ちゅうちょ)する事情であると考えられており、いわゆる「心理的瑕疵」などと呼ばれ、物件の瑕疵担保責任を生じさせる事情であると考えられています。
物件の瑕疵については、仲介事業者等における重要事項説明の対象になり、心理的瑕疵がなくならない限りは、説明義務を負担することになります。賃料を減額することは必須ではありませんが、事故物件は一般的には賃借することを避けられやすく、賃料を減額等しておかなければ借り手がつかないというのも実情です。
本件のご相談では、事故後2人ほど入居されて4年程度経過した後に賃借された際に、クレームがあったというものです。
裁判例では、当該事件における個別の判断となっていますので、一般的な基準としての事故物件における自殺に関する説明義務の範囲や期間について、明確にされてはいません。とはいえ、貸主側からすれば、一定程度基準がなければ、いつまでも説明をしなければならなくなり、賃料も減額したままになってしまいます。
そのため、過去の裁判例の蓄積から、どの程度の期間は説明しなければならないのかについて探っていくほかありません。判断要素としては、契約の種類(賃貸か、売買か)、事故の種類(自殺、殺人、火事など)、事故の社会的な認知度、地域の特性(入居者の入れ替わりが多いか、長期間暮らす人が多い地域か)等が考慮されていますが、説明義務を長期にわたって認めたものでは、不動産の売買契約において殺人事件が起こってから約8年後でも説明義務を認めたものもある一方で、賃貸借契約の場合は、1年程度経過した事案で説明義務を負わないとしているものもあります。
時代や地域の実情に左右されるという側面は否定できないのですが、裁判例の中には、1年間は借り手が現れず賃貸不能であり、その後2年間は半額程度に減額せざるを得ないなどと判断するものもあり、このような裁判例を参考に約3年程度は説明義務を負担しなければならないといった考え方もなされています。
また、自殺した物件に、入居された方がいることで、心理的な嫌悪感は軽減されるといった判断もされることがあります。
このことから、間に1人入居者を挟めば説明義務を免れるといった意見もありますが、それだけでは十分ではなく、3年程度の期間が経過していることや周辺住民のうわさなども聞かなくなったといった事情を合わせなければ説明義務を免れると判断することはできないと思います。
ご相談の事情からすれば、法的には説明義務を負担する必要がないと判断される可能性が高い状況になっていると思われますので、説明義務違反を理由に賃料の減額に応じなければならないわけではないでしょう。
とはいえ、近年では、事故物件に関する情報がネット上でも公表されるなどしており、情報の入手方法も変わってきていますので、説明義務を負担しない理由をしっかりと返答できるようにしておくべきでしょう。