相談内容

 駐車場に鳥のふんが大量に生じており、駐車中の自動車が汚れて仕方がないとクレームがありました。
 一度だけではなく、ここ数か月続いているようなのですが、自然に発生するものであるため、やむを得ないことなのではないかと思っています。また、上空を電線が通っていることが原因となっていると思われます。
 洗車代や慰謝料などの支払を求められているのですが、応じる義務があるのでしょうか。

回答

 都心部の住宅地などでは、人間が住みやすいように環境が整えられ動物を街中で見かけることは一般的ではなくなってきているかもしれません。とはいえ、動物の存在を全く消し去ることはできないものであり、鳥のふんによる被害も自然と生じるやむを得ないものと思われる部分もあるでしょう。とはいえ、ほんの数日間そういった出来事があるにすぎなければ、受け入れられるものであっても、長く続くと苦痛に感じることもあります。

 まず、考えられるのは、鳥のふんの被害が自然と発生するものであることから、不可抗力にすぎず、賃貸人は責任を負わないのではないかという点でしょう。一般的には台風や地震などは不可抗力と考えられることが多いのと同じです。

 しかしながら、不可抗力というのは、自分に責任がないということではなく、人の力ではどうすることもできない、誰にとっても避けることができない被害であるという必要があると考えられます。台風や地震などの災害は、不可抗力に該当すると考えられやすいですが、賃貸建物や駐車場において災害が生じたときに、台風が原因の場合については、不可抗力と認められずに損害賠償責任が肯定されている例も多く、地震であっても一部の裁判例では賃貸人の責任が認められています。したがって、不可抗力は、思っている以上に狭い範囲でしか認められていないということは、念頭に置いて対処する必要があります。

 それでは、不可抗力といえるか否かについては、何を基準に考えたらよいのでしょうか。今回の相談内容を前提に考えると、鳥のふんによる被害が予測することができたのか、また、それを回避することができたのかといった観点が重要と考えられます。ここでいう予測可能性は、実際に被害を知っていたかということではなく、知ることができたのであれば十分と考えられます。そのため、初めての被害申告であったからといって予測可能性が否定されるとは限りません。ごく短期間のみ生じていたことであれば、予測することも回避することもできなかったといえるかもしれませんが、数か月継続していたということになると、予測できなかったということは難しいでしょう。

 一方、回避の可能性については、屋根を付けることができるかなどといった物理的なものだけではなく、経済的に回避可能か否かも考慮されますが、物理的に対応不可能であるとは考え難く、例えば、駐車場自体が広いうえ、被害が極めて広範で、どこに被害が生じるかまでは分からないため駐車場全体に屋根の設置が必要になるため、経済的に設置することが困難であるといえるような場合でない限り、経済的な回避可能性を否定することはできないと思われます。

 相談内容を検討するにあたっては、被害の範囲を確認のうえ、被害範囲が狭かったり、一部の箇所(巣が存在している場所の下など)に集中しているような場合には、回避可能性は肯定されることになり、賃貸人は鳥のふんの被害について、責任を負うことになると考えられます。

 責任を負う場合の賠償額としては、自動車を元の状態に戻すための費用として、洗車代に相当する額を負担しなければならないと考えられます。なお、自動車が汚れたとしても、物に対しての慰謝料は原則として認められていませんので、慰謝料まで負担する必要はないと考えられます。