【相談内容】

 賃借人から、水道水に錆が混ざるという苦情が寄せられ、これまで何度か水道管の清掃などの対策を行ってきましたが、しばらくするとまた錆が混じるという状態が続いています。
 清掃のみでは不完全と考え、水道管の変更を行うことにしたのですが、入居者の方に1週間程度退去していただく必要があります。賃借人の方が、賃料の支払いを停止しているうえ、修繕に協力的ではないのですが、何とか工事を実施することはできないでしょうか。

【回答】

 賃貸物件において水道設備は、生活において必須の施設になっており、スピーディな対応が求められる設備といえます。
 錆が混じるような水道設備になっていると、居住用の建物として使用収益に適切な状態が整えられているとは到底いえないでしょう。したがって、速やかに賃貸人としては、修繕を行う必要があり、賃借人としてもすぐに修繕してもらうことを望むでしょう。

 ところが、退去を伴う修繕が必要となった場合には、賃借人としても二の足を踏む場合があります。賃借人からすれば、生活の拠点としているわけですから、仕事へ行くために必要な通勤時間も変わると毎日の生活リズムも変わりますし、自身の生活圏が変化するとなれば、不満も現れやすいといえます。

 賃借人からは、たとえば、これからの賃料を減額してほしいとか、一時退去期間中の交通費を負担してもらいたいであるとか、そもそも修繕を尽くせていなかったことが原因だから損害賠償を請求するなど、様々な要求が出てくる可能性があります。部屋の中の修繕の問題が出てきた場合には、不備があるにもかかわらず賃料を支払わなければならないことへの納得感が得られにくいこともあいまって、紛争の解決に向けて様々な調整が必要になることが多いです。

 さて、法律上、賃貸人は、賃借人へ何が要求できるのでしょうか。一方で賃貸人の義務はどのような範囲になるのでしょうか。まずは、解決に向けた出発点として、賃借人による間違った要求がどこまでで、賃貸人が行わなければならない修繕義務がどの程度なのかを把握しておく必要があります。

 最初に、賃貸人には、修繕義務があることは当然ですが、部屋に不具合がある場合は修繕しなければならないといっても、生活に支障が出る程度の不具合でなければ修繕義務までは発生しません。今回は、生活に必須の水道に関する支障ですので、修繕義務自体は認められてしまうでしょう。

 次に、賃料への影響ですが、賃借人による全額を支払わないという行動は修繕がたとえ必要であっても許容されないでしょう。修繕までに生じている生活への支障は一部に留まる以上、賃料が発生しない範囲も一部に留まりますし、水道が使えなかった時間がどの程度かにも左右されるでしょうが、長期間放置し続けていたといった事情がない限りは、それほど高額の損害賠償が生じることはないでしょう。

 また、賃借人には、賃貸人の修繕要求に対する受忍義務が課されています。この受忍義務に違反して、修繕をさせないという行為は、元々貸主が所有する建物の価値を毀損する行為でもありますので、信頼関係を破壊する事情として考慮され、場合によっては契約を解除して退去するよう求めることができる場合もあります。

 ご相談の内容によれば、賃料の支払を止めており、修繕にも協力的ではないようです。確かに、不便な状況は生じますが、賃借人には、賃料の不払や修繕に協力しないことが信頼関係の破壊につながり、一時退去どころか契約解除につながる行為であることを説明したうえで、退去期間中の賃料や宿泊費などの負担を合意して、速やかに修繕を進められるように交渉すべきと思われます。