相談内容

 賃貸借契約の借主が入居予定者とされていたのですが、訪問してみたところ、その息子と女性が同居していることが判明しました。借主自身は、当初は息子と同居していたようなのですが、現時点では、遠方に居住しており、この物件にはほとんどいないようです。

 賃料については支払われているのですが、入居者が異なるということは契約違反だと思います。もうすぐ更新の時期が来るのですが、このまま更新してもよいのでしょうか。

回答

 賃貸借契約を締結した場合に、賃貸借契約の当事者と入居者が異なる場合はあります。例えば、社宅利用の法人契約の場合や、両親が契約者となり子供が入居する場合などは、賃貸借契約の当事者と入居者が異なっていても、問題とはならないでしょう。しかしながら、これらのように、予め入居者として指定したうえで契約の当事者と入居者が異なるというケースと、ご相談のケースは大きく異なります。
 重要なポイントは、賃貸人が、入居者による利用を許諾していないことといえるでしょう。民法612条は、「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。」と定めており、賃借人による無断転貸は民法で禁止されています。賃借人が違反した場合には、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができます。また、サブリース契約などの転貸借を前提とした契約を除けば、多くの賃貸借契約書において、無断転貸は禁止され、解除事由とされているはずです。

 今回ご相談の事例では、当初は、賃借人と息子が同居しています。賃借人本人が居住している場合に、親族等の入居者を迎え入れることは、典型的な無断転貸とは若干異なる点があります。転貸といえるためには、第三者が独立して使用収益できるようにすることを意味すると考えられており、賃借人と同一家計にある場合、転貸とまで評価されない傾向にあります。したがって、家計を同一にする家族を迎え入れることは解除が可能な転貸とまではいえず、賃貸借契約を解除することはできないことが一般的です(ただし、賃貸物件の広さに比して、入居者が過大になったりすれば、用法遵守義務違反となる場合はあるでしょう。)

 それでは、賃借人である父親が退去して、息子と女性が同居している状況については、どのように評価されるのでしょうか。過去の裁判例では、賃借人と同一の家計にある限りは転貸とまでは評価できないが、賃借人が退去し、同居人が独立の占有を有するに至った場合には、賃借人が退去したときに転貸したものと評価することができると判断したものがあります。
 したがって、今回のご相談でも、賃借人が退去した時点で、無断転貸の状態となり、契約を解除することができるようになったと考えられます。

 ただし、賃貸借契約の解除には、信頼関係の破壊が必要であり、無断転貸の場合であっても背信性がなければ解除できないとされています。無断転貸という行為自体は一般的に背信性が高いと考えられているものの、親族間における転貸は比較的背信性が低いと評価されやすい傾向にあります。

 今回のご相談では、契約更新の時期を迎えるとのことですが、転貸の状況を認識しつつ、契約を更新した場合には、転貸の状況を承諾したものと評価されるおそれがあります。無断転貸行為は、更新拒絶の正当な事由にも該当すると考えられていますので、契約を更新したくない場合には、更新拒絶の連絡をすべきと考えられます。また、契約を継続するとしても、賃貸借契約の当事者を変更して、息子を賃借人とし、父親を連帯保証人としたうえで、入居者の申告を受けるなど、現在の入居者の状況に合わせた契約の変更をすべきと考えられます。