帝国データバンクの発表した2015年3月11日付『医療機関の休廃業・解散動向調査』によれば、2014年の医療機関(病院、診療所、歯科医院)の休廃業・解散数は、2009年の約3倍に増えており、高齢者を支えるべき医療機関が減少しています。その背景には深刻な後継者不足があるため、その解決策として、事業会社同様にM&Aを活用することができますが(事業譲渡や合併は可能)、事業会社とは異なり、病院等の医療法人特有のポイントがありますので、以下でご説明致します。なお、医療法人は数種の類型がありますが、ここでは、大多数を占める社団医療法人を念頭に置きます。
 医療法人は、①持分の定めのある医療法人と②持分の定めのない医療法人に分かれます。

持分の定めのある医療法人のM&A

 まず、①持分の定めのある医療法人については、買収者は、当該医療法人の持分の譲渡を受けるのみならず、社員や理事を交代させる等して、最終的に社員や理事の有する議決権の過半数を確保することがポイントになります。

 これは、事業会社であれば買収者は、株式を100%取得すれば、株主総会での議決権を独占するので取締役の選任や解任を自由に行うことが可能ですが、持分のある医療法人では株主総会に相当する社員総会の議決権は、社員(出資者とは限らない)が各1個ずつ有していますので、持分の取得によって社員総会の議決権を確保できるとは限らないためです。

持分の定めのない医療法人のM&A

 次に、②持分の定めのない医療法人についてですが、持分の処理は不要ですので、理事長に退任して頂くことで基本的に完了するのですが、退職慰労金を事実上の買収対価として支払うことがポイントになります。

 退職慰労金は、本来、医療法人内の退職慰労金規定に則り、医療法人から退任理事長に支払うものですが、退職慰労金を支払う資金的余裕のない医療法人も多いので、買収者が退職慰労金相当額を医療法人に出資し、それを医療法人から退任理事長に支払う形式をとることで、買収対象の医療法人を毀損することなく適正な買収対価の支払いを完了することが可能となります。