少子高齢化が進行する昨今、身寄りのないままに他界する方が多く見受けられます。入居者が死亡し、相続人が1人もいない場合、利害関係人等の請求によって、家庭裁判所が相続財産管理人を選任することになります(民法952条1項)。相続財産管理人は、被相続人(亡くなった方)の債権者等に対して支払を行うなどして清算を行いますが、清算の過程においては、特別縁故者に対する財産分与が予定されています。すなわち、民法は、法律上の相続人がいない場合、財産を国庫に帰属させるよりも優先的に、特段療養看護に努めた者等に当該財産を帰属させるべき制度を置いています。
そして、意外と知られていないことですが、個人のみならず法人等の団体であっても特別縁故者として認められることがあります。たとえば、被相続人が残した相続財産(現金・預金合計金約1890万円)を、生前療養看護にあたった介護付入居施設を運営する一般財団法人を特別縁故者と認めて、分与した例があります。首から下がほぼ麻痺状態となった被相続人が約6年間当該施設に入居していたという事案において、裁判所は、介護に関する被相続人独自のサービスの要求や無理な注文にも職員が辛抱強く対応してきた点等に着目し、「被相続人が当該施設による献身的な介護を受け、これによりほぼ満足できる生活状況を維持することができていた」と認め、当該施設を運営する一般財団法人を特別縁故者と認めました(高松高裁平成26年9月5日決定)。
なお、被相続人は本件施設への入居中に、月額25万8000円の施設利用料を支払っていましたが、この点について、裁判所は「仮に結果的に施設利用料が介護サービス等に対する報酬として正当な額であり、両者間に対価関係が認められるとしても、それだけで特別縁故者に当たらないと判断するのは相当ではない」等と判断しています。
身寄りのない被相続人の財産の処理方法として、国庫に帰属させるのではなく、介護等に尽くした介護施設に帰属させ、介護施設全体の福利増進事業に寄与することも合理的な処理方法と思われます。