1.人手不足感の拡大

 帝国データバンクによる『人手不足に対する企業の動向調査』によれば、平成28年1月時点において、正社員が不足していると感じる企業が約40%に達しており、従来にも増して人材確保が重要な経営課題になっております。

2.経歴詐称を理由とする解雇

 それに伴い、即戦力となり得る経験者の中途採用活動が活発化していると思われますが、企業側の採用意欲が高まる余り、応募者の経歴詐称を見落として採用してしまい、結果的に企業に損害が生じるという問題も生じています。このような経歴詐称が発覚した場合、最初に解雇を検討する企業が多いのですが、過去の裁判例を踏まえますと、解雇が適法とされるケースは限られており、経歴詐称者への対応は容易ではありません。そこで、今回は、いかなる場合に経歴詐称を理由とする解雇ができるか検討していきたいと思います。

3.裁判例の傾向

(1)経歴詐称を理由とする解雇の有効性の判断基準

 まず、たとえ就業規則や入社時の誓約書に経歴詐称をしたことを理由に解雇処分ができるという旨の規定があったとしても、当然に解雇処分を適法にできるわけではないことに注意が必要です。あくまで、詐称された経歴等の内容、詐称の程度等を踏まえ、具体的な危険性を総合的に考慮して解雇の効力を判断しているのが現在の裁判例の傾向です。

(2)事実を申告しなかったにとどまるケース

 例えば、パチンコ店のホールスタッフのアルバイトで、性風俗店で働いていた経歴を秘して採用された者を解雇した事案において、裁判所は、企業秩序の侵害の程度は軽微であったと認定した上で、アルバイトという期間の定めのある契約であったこと、性風俗店での職歴を秘していたという消極的な行為があったに過ぎないこと、採用後の勤務態度に問題がなかったこと等を理由として、処分として解雇は重すぎるため無効と判断しています。また、以前の勤務先でパワハラ、セクハラを行ったことを秘して大学教授として採用された者を解雇した事案においても、裁判所は、パワハラ・セクハラを行ったことを労働者自ら告知すべき法的義務はないとして、その余の点を判断することなく、解雇を無効と判断しています。

 これらの裁判例からは、経歴詐称の態様として、単に応募者が自己に不利益な事実を申告しなかったにとどまる場合には、解雇は無効であると判断される可能性が高いと言えます。

(3)積極的に虚偽の事実を作出したケース

 では、意図的に事実を隠すために、積極的に虚偽の事実を作出した時はどうでしょうか。

 例えば、試用期間中の解雇の事案ではありますが、応募者が、以前勤めていた会社と係争中である事実を隠蔽し、その期間はフリーランスで就業していた等と虚偽の事実を伝えていた事案において、採用選考の結果に多大な影響を与える重要な経歴を意図的に隠したとして、採用後の勤務態度が芳しくないことも踏まえ、同人に対する解雇を有効としました。

 さらに、前職の就業先と在籍期間を偽っていた上、同社から能力不足を理由に解雇されていた事実を隠蔽し、日本語能力も著しく誇張していた外国人労働者を解雇した事案においては、解雇が有効とされたにとどまらず、同人が、虚偽の申告を前提に賃金の上乗せを求めて支出させた点が詐欺にあたるとして、会社から当該労働者に対する不法行為に基づく損害賠償請求をも認めています。

4.まとめ

 以上のように、経歴詐称と一口にいっても、詐称された経歴等の内容、詐称の程度等を踏まえ、現実に生じた具体的な危険性の程度により、①解雇が無効、②解雇が有効、③解雇が有効とされるのみならず、労働者に対する損害賠償請求まで認められる事案と様々ですので、実際の対応については弁護士へ相談されることをお勧めいたします。