近時、最高裁によって、現在我が国で高齢者介護を行う方々にとって追い風となる判決が出されました。
事案の概要は、認知症(要介護4:事実認識・記憶状況において日常生活に支障を来たす状態)であるA(当時91歳)が、状況を認識できないまま一人で外出し、JR線の線路内に立ち入った結果、運行中の列車と衝突して死亡した事故を受け、JRが、Aの介護をしていたAの妻Y1(当時85歳)及び長男Y2に対して、同人らの監督義務違反を根拠に、運行遅延等に基づき生じた損害の賠償(720万円の支払い)等を求めたというものになります。
原審(名古屋高裁)が、Y1のみ、一部(360万円)賠償責任を認めたのに対し、最高裁は、2審の判断を破棄したうえで、Y1・Y2ともにAを監督すべき義務はなかったとして、賠償責任を否定しました。
最高裁は、原告側の請求から導かれる監督義務の根拠として、①「保護者」制度や、民法上の成年後見人に関する法規定、②夫婦間の法律上の義務である同居・協力・扶助義務の他、③当事者の関係性等から、監督義務を引き受けたと認めるべき「特段の事情」がある場合、の3点を挙げました。
しかし、①については、事故が起きた平成19年当時の法規定によれば、契約等の法律行為を超えて、事実行為としての介護行為やその監督等までを義務付けるものではないとし、また、②については、あくまで夫婦相互間の義務を規定するものに過ぎず、第三者との関係における監督責任まで義務付けるものではないとして、それぞれ、監督義務の根拠となることを否定しました。
また、③について、Y1は、自らも下肢の麻痺等から要介護認定を受けていたため、事実として、Aによる第三者への加害を防止すべき監督を行える状況になかったとし、Y2は、月に3回程度の訪問を行っていたというのみではAによる第三者への加害を防止するための監督ができる状況にはなかったとして、いずれも、「特段の事情」の存在を否定しました。
このように、裁判所は、親族による介護の場合における監督義務について、主に、「事実として監督が可能か」という観点から、「特段の事情」がある場合に限り例外的に生じるという判断を示しており、親族による介護における介護側の責任をかなり制限する判断を示したと考えられます。しかし、「夫婦や息子であれば責任が生じない」という単純な規範を示したものではないため、介護をされている方々は、本判決の事情と比較しながら、自らに監督義務があるかを検討されるべきと存じます。