高齢者施設においては、多くの場合、高齢者に対する特定の差入れを禁止し、禁止されている差入れが発覚した場合には没収し、場合によっては処分することもあるようです。しかし、このような没収または処分については、原則として、他人である入所者の物を一方的に奪い、または毀棄してしまうものとして、民事上は不法行為に該当する可能性があるとともに、刑事上も窃盗罪や器物損壊罪等に該当する可能性もあります。

 それでは、入所者への禁止されている差入れについては、対応する手段はないのでしょうか。この点、手段として考えられるものとしては、施設の規則が挙げられます。すなわち、施設の規則において、持込み禁止の物を列挙するとともに、持込みした場合には当該物を没収する旨を定めておくことで、没収の根拠とするもので、多くの施設において利用されている手段です。この点、注意が必要な点としては、列挙されていない物の取扱いです。列挙されていない物については原則として没収はできないものと考えられますが、列挙されていない物についても対処の必要がある場合も存在するため、規則においては「その他施設利用に際して支障が生じるものと施設側が判断した場合」といった包括的な規定を設けて対処することも考えなければなりません。

 また、仮に規則において没収できる旨を定めたとしても、規則が存在するだけでは法的にはなんら根拠を有さないという点について注意が必要です。すなわち、規則はあくまでも法律ではなく、施設側と入所者との間で成立する契約の内容にしなければならないと考えられるため、入所者が当該規則に同意する必要があるのです。そのため、入所の際には、入所者から規則について同意を得ておくべきであるといえます。 加えて、規則の変更に際しても注意が必要です。すなわち、通常は契約の内容は一方的に変更を加えることはできず、変更される場合にはその都度入居者の同意を要するものと考えられるため、規則の変更のたびに同意を得ることが安全であると考えられます。

 さらに、施設入居者との間で規則を整備したとしても、あくまでも入所者との間の法律関係を整備したのみであることから、差入れを行う来訪者との間においては通常効力を有さないことに注意を要します。この点、差入れを受けた入所者に所有権が移転したものとして、入所者との間の法律関係として規則で処理することも考えられますが、入所者が単に借りていた場合等には規則の効力が及ばない可能性もあります。そのため、来訪者に対しても、差入れ禁止の物を明示し、違反した場合には没収等を行う旨を明示すべきものと考えられます。

 以上のように、差入れに対しては適切な規則を定めることが有効な対抗手段となりますが、規則運用に際しては慎重に行わなければなりません。特に、物を処分することについては、通常必要性も相当性もないと考えられることから、仮に規則に定められていたとしても、消費者契約法等により無効と判断される可能性もあります。