厚生労働省の人口動態統計(平成25年度)によると交通事故よりも転倒・転落による死亡者数の方が多くなっており、転倒・転落は身近で危険な事故といえます。
では、転倒・転落を防止するために法的にどういった配慮をする義務があるのでしょうか。
高齢の入院患者が病室の窓の外に落下して死亡した事故について、病室の物的設備の設置・保存に瑕疵があったと認定した事案を参照し、病院等の施設において通常どういった配慮をする法的義務があるのかについて紹介したいと思います。
本件で紹介する事案は、両下肢麻痺に罹患し入院していたXが、ベッドにくくりつけられたさらしを手繰り寄せるなどなんらかの動作をした際に窓の方向に弱い力が働き、窓の外に飛び出して転落したと認定された事案です。
Xが使用していたベッドは窓に接着させて配置され、窓を開けたときの空間とベッドマットは18㎝ほどの高低差しかなく、ベッドの窓側の手すりは外してあり、窓にも格子や手すりはない状態でした。
病院側は、Xが看護師を呼んで危険な体勢をとることを回避しなかった点についてXにも落ち度があると主張しましたが、裁判所は病院側の主張を退けました。
そして、裁判所は、病院においては、患者の生命身体の安全確保をはかるべき義務があると認定した上で、本件のように両下肢麻痺で入院している患者の場合には、その使用するベッドは窓から離して配置するか、窓に接して配置する場合には窓ないしベッドに手すりを設置するなどして物的設備を安全に整えることにより、患者が窓の外に転落することを防止する義務があるにもかかわらず、かかる義務を怠ったと認定しました。
そして、Xの病室は通常備えるべき安全性を欠いているとして、Xの病室には物的設備の設置・保存に瑕疵があったと認めました。
このように病院等の施設においては、患者が一定の危険な体勢や行為を行う前提で、患者の生命身体の安全確保をはかるべき法的義務が認められる可能性が高いといえます。
かかる法的義務を履行するために施設側は様々な措置をとる必要があり、このような措置をとっていない場合は物的設備の設置・保存に瑕疵があったと認定される場合があります。
したがって事業者におかれましては、入院している患者が危険な体勢や行動を行う可能性があることを十分に認識し、口頭で注意するのみではなく手すりをつける等患者が物理的に転落・転倒しないような具体的な措置を行う必要がある点にご留意いただければと思います。