会社同士の契約の締結には往々にして時間がかかります。民法上は、売買契約は口約束でも成立することになっていますが、実際には、個人間ではともかく、会社同士であれば必ずと言っていいほど契約書を作成して契約を締結していることでしょう。

 ところが、契約条件が決まっても、それから本当に契約締結されるまでには往々にして時間がかかります。契約書の文言を法務がチェックして、稟議を回してしかるべき決裁者の承認を得て・・とやっていると、どうしても納期を守るためには正式締結前に着手しないと間に合わない、という事態が起きてきます。

 そのような場合に、とりあえず、発注予定書だけもらって作業を始めてしまう、というやり方をすることが多いのではないかと思いますが、発注予定書にはどれほどの法的効力があるのでしょうか。

 発注予定書ではありませんが、いわゆる大きなプロジェクトの場合には、大筋の合意に達した時点で意思確認のためにLOI(Letter of Intent)という書面を結ぶことがあります。これは、関心表明書とも訳され、特定のプロジェクトや案件に対し、検討を実施することを約する契約書のことです。主要な条件について大筋の合意に達した時点など交渉の大きな節目において締結されるのが一般的ですが、その内容としては状況確認、意思確認に過ぎず、多くの場合、法的拘束力を持ちません。

 発注予定書もこのLOIと同じようなものと考えておいた方が安全ではないかと思います。結局のところ、発注予定書は「発注する予定です」ということに過ぎず、これに基づいて作業をしていたけれど、結局正式契約は結ばれなかった、という場合、契約に基づいた作業であるとして、その対価を請求するのは難しいのではないでしょうか。

 このようなリスクを避けるためには、少なくとも、正式契約の締結時期と、その時期に締結されなかった場合の費用の清算については、発注予定書に一言入れておくべきだと思います。もっとも、そのような一言を入れることについては相手の会社も嫌がるでしょうから、ますます作業の着手が遅れて納期を守るのが難しくなってしまうという別のリスクは高まってしまいますが・・なかなか難しいものですね。

弁護士 堀真知子