1.表明保証条項とは

 株式譲渡契約等のいわゆるM&A契約を締結する場合、契約当事者は、契約目的物に関する事実について真実かつ正確であることを表明し、かつ、これを保証することを約する表明保証条項を盛り込むことが通常です。この条項は、たとえば、買収後に、対象会社(売主会社)に簿外債務があったり、事業継続に必要な営業許可がなかったりしたことが新たに判明した場合、それによって生じた損害の賠償請求をすることを可能にするためのものであり、一般的には対象会社(売主会社)の責任が問題となることが多いものです。

 しかしながら、この表明保証条項は、売主のみが対象になるものではなく、買主においても問題となることがあります。

2.買主会社の表明保証責任が問題となった事例

 買主会社の表明保証責任が問題となった事例として、東京地裁平成19年9月27日判決(ライブドアオート事件)がありますので、以下にご紹介します。

(1)事案の概要

 本件は、中古車販売を業とするジャック・ホールディングス株式会社(後にライブドアオート株式会社へ商号変更)が、粉飾決算の事実を秘匿していた株式会社ライブドアに対して発行済株式総数の51%を譲渡したところ、買主であるライブドア社の粉飾決算の事実が譲渡後に明るみになったため、それにより損害を被ったとしてライブドア社に対して約16億円の損害賠償を請求した事案です。

 なお、契約書上は、原告ライブドアオート社(売主)の表明保証責任の内容が財務状況を含めた多数の項目にわたり定められているのに対し、被告ライブドア社(買主)の表明保証責任の内容はわずか3項目に過ぎず、かつ、財務状況における表明保証条責任は定められていませんでした。

(2)争点

 本件の争点は多岐にわたりますが、最大の争点は、契約書上明文で定め ていなかったにもかかわらず、買主会社が粉飾決算の事実を含めた自社の財務状況について表明保証する義務を負っていたのかという点です。

(3)裁判所の判断

 この点につき、裁判所は、

「企業買収において資本・業務契約が締結される場合、企業は相互に対等な当事者として契約を締結するのが通常であるから、私的自治の原則が適用され、特段の事情のない限り、上記の原則を修正して相手方当事者に情報提供義務や説明義務を負わせることはできないと解するのが相当である。」

と判示し、契約を締結する上で必要な情報は自己の責任において収集・分析するのが原則であるとして、被告ライブドア社の表明保証義務を否定しました。

3.本判決から得られる教訓  

 以上の事例のように、表明保証責任が問題となるのは、売主だけではなく、買主のケースもあることから、株式譲渡契約等のM&A契約を締結する際には、買主の表明保証条項が定められているかどうかも確認する必要があるといえます。また、上記裁判例が「企業は相互に対等な当事者」といっていることからすれば、M&A契約においては、原則として契約書に定められた事項のみが契約内容になると言っても過言ではありませんので、契約書を作成される際には十分に注意する必要があるといえます。

弁護士 森 惇一