今回は、介護施設従業員等による高齢者虐待について考えていきます。
 虐待と言えば、直接的に暴行を加えて外傷を与えるような事件が大きく報道される傾向にありますが、そのような物理的な暴行のみが虐待にあたるわけではありません。

 「高齢者の虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下、「高齢者虐待防止法」といいます。)においては、「養介護施設従事者等による高齢者虐待」に該当するものとして、①暴行等による身体的虐待、②長時間の放置等、③暴言等による心理的虐待等、④わいせつな行為等による性的虐待、⑤高齢者から不当に財産上の利益を得ること等による経済的虐待の5つを定めています。
長時間の放置や、高齢者と直接契約をすることにより不当な財産上の利益を得ること等も、高齢者虐待にあたり得る行為となります。虐待防止のためには、何が虐待にあたる行為なのかという意識を持つことが必要です。

 では、このような高齢者に対する虐待について、どのような対策を取るべきでしょうか。
この点、高齢者虐待防止法第20条においては、養介護施設従事者等の研修の実施、高齢者及び家族からの苦情処理体制の整備、その他高齢者虐待防止等のための措置について、介護施設の事業者が講ずるものと定めています。

 介護施設従業員による高齢者虐待は、介護によって生じたストレスが原因である場合も多いため、従業員用の相談窓口等を設けることも有効と考えられます。
 また、万一、高齢者虐待が発生してしまった場合については、高齢者虐待防止法は、高齢者虐待を発見した者に対する通報義務を定めています。養介護施設従事者等は、働いている施設において高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに市町村に対し通報しなければなりません(高齢者虐待防止法第21条1項)。
 市町村に通報した場合、市町村長及び都道府県知事は、同法第24条の規定に基づき、老人福祉法又は介護保険法の規定による権限を適切に行使することになります。具体的には、介護保険法90条に基づく出頭要請及び質問や、重大な場合は、同法92条に基づく指定の取消し等が考えられます。

 仮に高齢者虐待を発見したにもかかわらず通報を怠り、後に発覚した場合には、介護施設のイメージ低下等による損害は図り知れません。また、施設ぐるみで通報を怠り、高齢者虐待を隠ぺいしていると認められるような場合には、事業主は入居者に対して損害賠償義務等を負う可能性があることに留意すべきでしょう。