介護施設においては、時として利用者に対する身体拘束をせざるを得ない状況に置かれるケースがあります。
 しかしながら、身体拘束については慎重に対応しなければ、場合によっては施設を経営する法人や身体拘束に関与した当事者が巨額の損害賠償責任を負う可能性があります。

 身体拘束に関しては、障害者施設の例ではありますが、平成27年2月13日、大阪地裁において、施設及び拘束者に対し、連帯して金7300万円余りの損害賠償責任を認めた裁判例があります。
 当該裁判例においては、利用者がパニックを起こし施設職員にかみつこうとしたことから、5名がかりで15分程度に渡り体を押さえつけていたところ、嘔吐し、心肺停止の状態に陥り死亡しました。
 この点、裁判所は、身体拘束の違法性を判断するに際し、行政指針として、厚生労働省の「身体拘束ゼロ作戦推進会議」において作成された「身体拘束ゼロへの手引き~高齢者ケアにかかわるすべての人に~(案)」を参考にしました。

 当該手引きでは、「緊急やむを得ない場合」には例外的に身体拘束が認められるものと規定されており、身体拘束が許容されるのは、あらゆる支援の工夫のみでは十分に対処できないような「一時的に発生する突発事態」にのみに限定されるものと規定されているとともに、より具体的には、切迫性(利用者本人又は他の利用者等の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと)・非代替性(身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと)・一時性(身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること)の3要件を慎重に判断することとされています。

 そして、裁判所は、まず身体拘束自体は正当な業務行為と認められる余地があるとはしながらも、「緊急やむを得ない場合」であったのか、当該3要件を用いて判断しました。

 そのうえで、利用者が第三者等に危害を加える可能性が高かったことを理由に切迫性は認めたものの、手足を押さえつけた点に関しては非代替性を認めながら、胸腹部等を圧迫する態様等に関しては必要最小限とは言えないとし、非代替性を認めませんでした。

 本裁判例の基準に関しては十分な理解を要するところ、突然発生する緊急事態に際して場面に応じて適切な対応ができるとは限りません。
 そのため、日ごろから前述の手引きを職員に周知したうえで、いろいろな場面において緊急事態を想定した対応を定着させる等し、内容理解を徹底した方が良いものと考えられます。