A.
1 相続において、実家に住んでいるというだけで法律上優先されるということはありません。ただ、相続人間の合意により、遺産分割の方法として、兄が実家を相続するということはあります。

2 遺産分割の手続は、まず相続人間で協議を行い、協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停又は審判を申し立てることになります。

住んでいただけでは実家をまるごと相続はできない

 本件では、被相続人である父の遺言がありません。そして、相続人は兄と弟の2人ですから、両者の相続分は各2分の1ずつとなります(民法900条4号)。つまり、弟は実家について2分の1の持ち分を有していますから、ずっと実家に住んでいたというだけで兄が丸ごと相続するということはありません。

 不動産については、物理的に2つに分けるということはできませんので、売却してお金に換え、それを相続分にしたがって分配するというのが実務上の運用です。もっとも、兄弟間で遺産分割協議をして、兄が実家を相続し、実家の売却代金の2分の1相当額を弟に支払うという方法も可能です。ただ、兄に実家の売却代金の2分の1相当額を支払えるだけの資力がなければ、この遺産分割の方法は不可能で、やはり売却代金を分配するという方法によることになります。

兄弟間でもめている場合の相続の進め方

 前述のとおり、遺産分割は、まず相続人間の協議で行われます(民法909条2項)。しかし、本件では兄と弟で実家の相続についてもめている状況ですので、協議でまとまらない可能性が高いでしょう。

 その場合には、相続人は家庭裁判所に対し、遺産分割調停又は審判の申立てを行うことになります。遺産分割については、離婚などと異なり、調停を先に行わなければならないという法律上の要請はありません。しかし、遺産分割審判を申立てても、調停に付される可能性が高いというのが実務上の運用です。