(3) 小括

 このように、AがBの相続権を主張していくためには、Bが出生後、まず、A又はBが認知の訴えを提起した上で、 XとBとの間に父子関係を形成しなければなりません。その上でAがBを代理して相続権を主張して請求しなければなりません。
 そして、認知の訴えが認められ、XとBとの間に父子関係が生じた場合には、出生時に遡って親子関係の効果(親権、不要、相続等の権利義務)が発生します(784条本文)。
 民法上、認知の遡及効について、第三者の既得権を害することはできないと規定されていますが(784条ただし書、父子関係については910条)、この場合、Bは、価格請求をすることが認められております。
 したがって、Xが死亡し、Yさん及びZで遺産分割を済ませていた場合、後にBが分割を請求しようとしたとしても、遺産分割は無効にならず、Bに対して価格のみによる支払いをすれば足りることになります。

 よって、Yさんとしては、戸籍でXが任意認知をしているかを確かめ、認知していないようでしたら、家庭裁判所による分割の禁止(民法907条3項)があればともかく、さっさと遺産分割をしておいた方がよいでしょう。
 もっとも、Bが上記手続を経た上で価格請求をしてきた場合には、「価格の支払を請求した時」における遺産中の積極財産から消極財産を差し引いた純遺産額に対する被認知者の相続分の価格を、Y及びZは分割してBに支払わなければなりません。