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①ご長男に対し、民法の条文を示して、日本の相続制度では長男が両親の遺産を全て相続できる制度にはなっていないことを説明する、②それでも理解しようとしない場合、㋐個別に回収できるものは回収する、㋑粘り強く話し合いを続ける、㋒家庭裁判所に調停又は審判手続の申立てをすることが挙げられます。

 前置きとして、ご兄弟の中で相続人の欠格事由、廃除の根拠となる事由はないものとして解説いたします。

 日本では、昭和22年になされた民法改正前まで、長子相続を推奨する制度設計となっておりました。
 しかし、上記の民法改正によって現在の制度となり、民法900条4号で「子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする」と定められました。よって、被相続人の直系卑属が相続人となる場合に、長男が優先されることはありません。
 したがって、「長男だから親の遺産は全て俺のものだ」という言い分は、法律上成り立ち得ません。
 また、遺言書はないとのことなので、ご長男一人に相続をさせる法律上の根拠はない、とはっきり言って差し上げるのが、最初の段階だと思われます。

 しかし、今回、ご長男は話し合いに応じようとしない態度をとっており、上記のとおり法律上から導かれる結論をお伝えしても、「法律はそうかもしれないが、俺は長男で、家を引き継いでいく立場なんだ」等と前時代的な発言を繰り返されて話し合い(遺産分割協議)が進まないことも予想されます。
 この場合の対処として考えられるのは、㋐各人で回収できるものは回収してしまう、㋑粘り強く話し合い(遺産分割協議)を試みる、㋒遺産分割調停又は審判を申し立てる、という選択肢が挙げられます。

 ㋐各人で回収できるものは回収してしまう、という指摘は、主に可分債権の行使を指します。例えば、被相続人が有していた損害賠償請求権等です。
 被相続人名義の預貯金債権は、最高裁の判例変更(最大決28年12月19日)によって、預貯金債権も遺産分割の対象に含められてしまったので、以前よりも個別に回収できるものがないといケースは少なくなっているかもしれません。

 ㋑ご長男の態度を前提に、粘り強く話し合いを続ける方法もないではないですが、あまり現実的な選択肢ではないように思います。どうしてもというのであれば、弁護士を代理人として選任して交渉にあたらせる、ひいてはご長男にも代理人が就いて、説得してくれることを期待するという動き方が考えられます。

 ㋒話し合いに行き詰った場合には、家庭裁判所へ調停又は審判手続の申し立てをすることが直截的かもしれません。
 調停はあくまでも裁判所で調停委員を介しながら話し合いをする手続ですが、裁判所の方から言われればご長男も襟元を正して法律論に則った話し合いに応じる可能性は出てくるように思われます。
 また、調停でも決まらない場合には、審判によって裁判官に判断してもらうという途もありますので、「長男だから親の遺産は全て俺のものだ」という言い分が最後まで通ることはないと思われます。