皆様、こんにちは。
1.はじめに
当職が前回作成したブログ記事(可分債権と可分債務の取り扱い)では、いわゆる可分債権と可分債務の取り扱いについて、法改正の状況をご紹介させていただきました。
その後、法制審議会の民法(相続関係)部会から、㋐「中間試案の取りまとめに向けた議論のためのたたき台」と㋑「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案のたたき台」とが、立て続けに発表されました。
前回ご紹介した可分債権の取り扱いについても少し気になる点がありましたので、今回はその点についてご紹介します。
2.気になった点について
⑴ 経過
前回の当職ブログ記事では、可分債権の関する法制審議会の改正案として、甲案と乙案と二つの案が挙げられているとご紹介しました。
簡単に振り返りますと、甲案は遺産分割前にも原則として一定の条件、範囲の下で可分債権を行使することが認められるとする案で、乙案は遺産分割前時点では全ての相続人の同意がなければ可分債権の行使はできないという扱いにする案です。
㋐「中間試案の取りまとめに向けた議論のためのたたき台」では、一旦甲案と乙案の折衷的な考え方にまとめられていましたが、その後に発表された㋑「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案のたたき台」では、再び甲案と乙案とに分かれて提示されていました。この経緯については「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案のたたき台」の補足説明でも記されているとおり、甲案と乙案の考え方が元々大きく異なっている点が影響しているのかと思います。
⑵ 内容面
㋐「中間試案の取りまとめに向けた議論のためのたたき台」では、可分債権を遺産分割の対象にするとしても、預貯金債権に限るべきではないかとの問題意識が示されていました。これは預貯金債権は、預金口座がわかればその存在や金額を把握することが容易で、相続人間の争いが生じにくいからと言われています。他方で、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条以下参照)や不当利得返還請求権(民法703条以下参照)といった債権も、最終的には金額が確定されるので、可分債権ではあるのですが、その内容が確定するまでに時間がかかり遺産分割に関する紛争が複雑化、長期化するが懸念が指摘されています。
ただ、法制審議会がさらに懸念しているのは、遺産分割の対象を預貯金債権だけに限ると、相続開始前(≒被相続人がお亡くなりになる前)に、相続人のどなたかや第三者が被相続人の預金を引き出してしまうと、この引き出された分の回収をするために不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得に基づく返還請求をしなければならなくなる結果、これらの請求の内容が確定するまで遺産分割協議があまり進まなくなってしまう点です。下手をすると預金の引き出しをした人が遺産分割協議の進行にイニシアティブを持ってしまうことにもつながるので、遺産分割の対象とすべき可分債権の範囲の設定は難しいところで、法制審議会も「引き続き検討すべき課題」と位置づけています。
⑶ 今後の展開
㋑「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案のたたき台」では、遺産分割が終わるまで可分債権の行使を禁止とする乙案について、現在、最高裁判所に係属している事件(当職の前々回のブログ「遺産分割前の預貯金の取り扱いに関する判例変更の可能性」でご紹介させていただきました。)の判断に影響を受けると、明記しています。
恥ずかしながらこれまで、法制審議会と最高裁判所のどちらが議論をリードするのだろうと思っていましたが、最高裁の考え方に法制審議会が合わせていく姿勢であることがわかりましたので、法制審議会は現在、甲案と乙案との対比で考えるという議論のスタイルを採っていますが、最高裁の判断によって、どちらか一方に固まったり、議論の進め方が様変わりしてしまうのかもしれません。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。