- Q.
- 私は一人暮らしで、身寄りはありません。そんな私の心の支えは愛猫の雲母(キララ)だけです。
貯えはそれなりにあり、現在の生活に問題はないのですが、私が先に逝ってしまったら、残されたキララはどうなるのか、と考えると心配です。何かいい方法はないでしょうか。
- A.
- ペットは時に「家族の一員」、「我が子同然」と表現されます。しかし、私法上権利の主体となりうる能力はないのです。
また、ペットが財産を相続できたとして、自らその財産を管理処分(自分で預金を引き出し、エサを買う等)することも期待できません。したがって、最終的には、人の手により介護扶養することが不可欠でしょう。
そのためには、①財産(エサ代等)の管理と、②現実に世話をしてくれる人間の存在、③その人が“自分の死後も、きちんと世話をしてくれるか”という点を解決しなければならないでしょう。
一つ目の方法として、信頼できる人物にペットの世話を依頼した上で、「負担付遺贈」を行う方法があります。これは、受遺者(財産を受け取る者)に対し、一定の法律上の義務を負わせた上で遺贈を行うものです。
これにより、世話を行う者に対し、エサ代等を与えるとともに、ペットの世話という負担を行うべき義務を課すことが可能となります。方法としては、遺言書に、遺贈の旨と義務の具体的内容、義務違反時には遺贈が効力を失う等の記載をすることになります。
ただし、負担付遺贈は、受遺者に一定の負担を課すものであることから、遺贈を放棄することも可能とされているため(民法986条)、受遺者と予め綿密な話し合いをしておくことは不可欠でしょう。
また、“お金だけ受け取りペットは処分”という事態を避けるため、遺言執行者を指定しておくことも有益でしょう。
遺言執行者は、遺言内容を具体的に実現するための手続等を行う者です。ペットの世話という負担の履行が適切になされているかどうか、監督してもらうことで、一定程度、履行確保を担保することができます。
遺言執行者は、遺言によっても選任することが出来ますが、一方的に指定してしまうと、遺言執行者に指定された側にとっては寝耳に水となり、就任拒否という事態も生じかねませんので、予め話し合い、同意してもらうべきでしょう。
財産管理及び飼育を行う者に対する管理の手法として、信託という方法も考えられます。あくまで被相続人の死亡時に効力が発生する遺贈と異なり、契約の内容次第で、急な入院等の場合をも対象にすることが可能である点や、相続財産から分離することにより、相続争いに巻き込まれない等、信託契約ならではのメリットも挙げられます。もっとも、歴史の浅い手法であるため、潜在的な紛争リスクについては未知数の部分もあるでしょう。
設問のように、天涯孤独の方の場合、引き取り先のあっせんも希望されることでしょう。原則として動物病院に飼育を委託するとの信託サービスを提供するという業者も現れているようです。ペットに関する信託が今後、より一般的に、システム化されていけば、より柔軟な対応が可能になっていくものと考えられます。