婚約(婚姻の予約)が破棄されたとして、損害賠償請求を求める訴訟は、従来から多数提起されてはいますが、どのような場合に認容されるのか、簡単にまとめてみようと思います。

 前提として婚約とは・・・・

「将来婚姻をする確実な合意」のことをいいます。そして、諾成契約、つまり、契約書などは不要であり、当事者が真実夫婦として共同生活を営む婚姻を約したものであれば足り、必ずしも同棲を伴う必要はなく、また、結納などの特段の方式も不要だと解されています。

 では、「確実な」合意とはどの程度をいうのでしょうか・・・・

 実は、これには明確な基準があるわけではなく、法的保護に値する程度に将来婚姻する合意がされていたかどうかを、当事者の主観のみならず、客観的事実から個々の具体的事案に応じて判断するしかありません。

 「何ら外形的な事実関係を伴わない場合には、両者間における婚姻の成立については相当慎重に判断する必要があるというべきである。」と岡山地判平成24年3月28日は判示していますが、同棲や結納、両親への挨拶、同居マンションの購入、婚約者として友人たちに紹介、といった外形的な事実関係がない場合には慎重に判断すべきだということのようです。何が外形的な事実であるかは、不明確であることからからすると、結局、明らかに結婚する意志があったといえなければ、裁判所は慎重に判断すべきだといっているのでしょう。まあ、結婚は大きな法的責任を伴うものである以上、相応の覚悟をもった行動があって初めて、法的責任を負わせるのが妥当でしょう。

 上記岡山地裁の事案は、バツイチの原告が、婚姻中の女性と交際していたところ、結婚の約束をしていたのに不当に破棄されたとして慰謝料を請求したものでした。

 まず、婚姻中に婚約なんて?と思われますが、重婚は民法上認められていない以上、実現不可能な契約は無効と考えることもできるでしょう。ただ、婚姻関係が破綻しており、離婚して再婚する蓋然性があれば、少なくとも法的保護に値する約束です。裁判例でも否定はしていません(東京地裁平成17年10月31日)。裁判離婚が認められるような事情まで必要かどうかは何ともいえませんが。

 裁判所は、

「原告と被告は約4年7か月もの長期にわたり、二人で全国各地に旅行をするなどして、性交渉を伴った交際を続けていたのであって、その間、血酒の誓いや、伊勢神宮への特別参拝を経て、最終的には○○の共同経営をするに至ったのではあるが、それ以上に、原告において両親に被告との婚約を報告したり、被告においては既婚者であり原告と結婚するには法律上の障害があったにもかかわらず、夫と離婚の協議をしたりするなど、いずれも結婚に向けた具体的な行動をとった事実は認められない。仮に原告と被告間において、将来の結婚に関する言辞が交わされていたとしても、それは両者間における恋愛感情を高め、男女関係を維持するためのものとみるのが相当であり、これをもって法的保護に値する婚約とまで認めることはできないというべきである。」

として請求を棄却しました。

 誤解を恐れずに言えば、行動を伴わない口約束は、恋愛感情が高まり発してしまったもので、法的保護に値するような効果は生じないということでしょう。

 ただ、あくまで、様々な事情を総合した判断ですので、「結婚するよ」というだけなら大丈夫だとは決して思わないでください。相手に期待させて、相手が具体的行動をとれば婚約破棄ではなくとも不法行為が成立する可能性はありますので・・・。

 ちなみに、請求の法的構成として、①婚姻予約(契約)の債務不履行構成と②不法行為構成の二つが考えられますが、考慮される事情に違いはなく、時効期間等でどちらの構成が良いかを判断して選択することになるでしょう。