こんにちは。本日は、法律上の親子関係の複雑さについてお話ししようと思います。

 現代社会において、血縁関係上の親子であるかどうかはDNA鑑定で簡単に判明することは皆様もご存じだと思います。

 しかし、現在運用されている日本の民法は、DNA鑑定などができるよりもずっと前に制定されたものなので、このような鑑定を想定していません。

 そこで、法律的に親子関係を決めるためには、独特のルールが存在します。

 また、親子かどうかのほかに、戸籍制度による嫡出子、非嫡出子の区別があることも法律上の親子関係をややこしくする原因でしょう。

 まず、民法772条1項によって、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定されます(嫡出推定)。また、2項によって、婚姻成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消もしくは取り消しの日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定されます。この規定で推定される子は嫡出子という身分になります。

 また、婚姻していない母親が生んだ子を父親が認知した場合には、非嫡出子、という身分になります。

 さらに、子供を父親が認知した後、父親と母親が婚姻をすれば、非嫡出子は嫡出子の身分を有することになります(789条1項 婚姻準正)。

 これらの規定は、現代のようなDNA鑑定等の技術がなかった時代に、結婚しているならば夫の子でしょう、というような経験則から作られたものです。

 しかし、男女関係は、そんなに単純ではないので、実務上、ここに様々な解釈や運用ができあがっています。

 例えば、離婚はしていないけれどももう何年も会っていないとか、夫が刑務所にいる間に妊娠した子の場合は推定の及ばない子、という考え方で親子関係を否定します。

 嫡出子については、父親が、自分の子ではないとして親子関係を否定する嫡出否認の訴えが用意されていますが(774条)この訴えは夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならないことになっています(777条)。

 つまり、子供が生まれてから1年以上たって、自分の子ではないということは原則できないということになります。

 また、認知についても、一度認知をした父または母は、その認知を取り消すことができないと規定されています(785条)。

 この規則を徹底すると、血縁関係上の結果とは異なる親子関係が形成されることもあり得るといえます。

 数年前にタレントさんの事件で話題になったように、代理母を使った出産の場合にも、血縁関係上の母が直ちに法律上の母とは言えないという結果が生じることがあります。

 また、実際には血縁関係がなくても、親子関係を否定したい人の動機やその他のさまざまな事情を考慮して、権利の濫用として親子関係不存在を認めないとの判例も出ています(最判H18.7.7)。

 基本的には裁判所もDNA鑑定の信用性を高く評価しており、その結果を重視する傾向が強いですが、法律上の親子とは血縁関係だけで決まるものではないので、注意が必要です。

弁護士 井上真理