相談

 2年前に妻と離婚しました。婚姻中、元妻は子供達の面倒を良く看ていましたし、実際に子供達も元妻や元妻の両親にとても懐いていたので、苦渋の決断でしたけれども、子供達の幸せを考えて親権は元妻に譲りました。僕は親権者でこそなくなりましたが、子供達のことは大好きで、いつも子供達の写真を持ち歩いていました。

 そんな矢先、突然のことで僕も混乱したのですが、元妻が3か月前に交通事故で亡くなったということを耳にしました。子供達は元妻の両親が育てているとのことです。それを聞いて、僕は大好きな子供達を自分の手で育てようと決意し、元妻の両親のもとへ子供達を引き取りに行きました。ところが、なんと、元妻の両親は自分たちが子供達を育てると言い張って、取り合ってくれませんでした・・・

 確かに、離婚して親権者ではなくなりましたけど、子供達の親はあくまでも僕なのですから、僕に子供たちを育てる権利があるはずです!何か良い方法を教えてください!

回答

 相談者が子供達を自分の手で育てていくためには、親権者変更の申立をする必要があります。

 ご存じのように、結婚している間、親権(子供を育てる権利)は夫婦が共同して行使することになっています。しかし、本件では、相談者は元妻と離婚し、その際に元妻が子供達の親権者になりました。さらに、その後、親権者である元妻が交通事故で亡くなってしまいました。

 このような場合、親権の行方はどうなってしまうのでしょうか。元夫である相談者のところに親権が復活するのでしょうか。

 確かに、相談者が言っているように、子供たちの唯一の肉親は相談者だけになったのですから、本件のような場合、親権は相談者に当然に復活して、相談者が子供達を育てることができるという考え方も自然なものかもしれません。ただ、例えば、元夫がDV夫であった場合や元夫にそもそも子供を育てる気が全くない場合など、離婚時や離婚後の事情を一切考えないで親権が当然に復活すると考えると、子供の幸福に反する結果となる場合があります。このような理由から、現在の裁判実務上は、親権は当然には復活しないと考えられています。

 よって、改めて、親権者変更の申立をする必要があります。

 他方で、本件では、元妻の両親も子供達を育てたいと考えています。本件のように、子供に親権者がいなくなってしまった場合を想定して、民法は、未成年後見人(親権者と同様の権利・義務を持っている人)という制度を用意し、子供を育てる人がいなくなってしまうという状況を防止しようとしています。元妻の両親は、自ら未成年後見人の候補者になって、未成年後見人選任の申立をするでしょう。

 このように親権者変更の申立と未成年後見人選任の申立が競合してしまうような状況であっても、親権者変更の申立は可能です。例えば、仮に、未成年後見人選任の申立が先になされて未成年後見人が選任されていた場合であっても、親権者の変更が認められると、「親権を行うものがいないとき」という未成年後見開始の要件が満たされないことになるので、未成年後見は終了するからです。

 もっとも、相談者が親権者変更の申立をすることができたとしても、直ちに親権者の変更が認められるわけではありません。本件でも、子供達には元妻の下で送ってきた今までの生活がありますから、親権者が相談者に変更されることは、子供達の生活に重大な影響を与えます。よって、慎重な配慮が必要となります。相談者が唯一の肉親であるという理由だけで、親権者の変更が認められるわけではないのです。

 さきほど「親権者たる元妻の死亡により夫の親権が復活するか」という問題を論じた箇所で述べたのと同様に、親権者を誰にするかは、①子供の意思、②今までの養育環境と現在の養育環境、③申立人の意思・養育能力、などの事情を総合的に考えて、子供の幸福のために誰を親権者とするのが最も適切かという観点から決められるものなのです。

弁護士 細田大貴