注:この会話は架空のものです。

事務員A「先生、前回のブログの続きなのですが。」

太田「三島?ケーキ?」

「先生、離婚ブログで文学やケーキについて語ったりするつもりなんですか!」

太田「いやいや、離婚届ですよね。あっはっは。」

「もうちょっと何か読者の方々にお役に立つような情報はありませんか?」

太田「まず、離婚届の用紙なんですが、インターネットでダウンロードしたやつをプリンターで印刷して使ってもいいって、知ってましたか?」

「うそっ! 離婚届、うすいペラペラの紙でプリンターの用紙と全然違いますよ。」

太田「でも、あの紙じゃなければいけないという理由はないですからね。様々なサイトでダウンロードできます。札幌市役所や大東市役所(他にもあるかも)のホームページでもダウンロードできるくらいなんですよ。もっとも、そのような用紙では受け付けないところもあると聞きますので、念のため提出する役所の戸籍係に聞いてから使ってくださいね。また、ダウンロードしたものを使う場合には、必ずA3用紙に印刷すること(家庭用プリンターはA4サイズまでしか印刷できないことが多いので、その場合は一旦A4で印刷してからコンビニのカラーコピーでA3に拡大コピーすると良いでしょう)、感熱紙を使わないこと(長期保存できないので)に気をつけて下さい。」

「ということは、婚姻届もダウンロードして使えますか?」

太田「使えるようですね。念のために戸籍係に確認してからの方がいいですが、これもダウンロードできるホームページがありますので検索してみてください。Aさんに先回りして言っておくと、死亡届も出生届もOKの役所があるようです。非常に便利ですね。」

「他に便利な情報はありますか?」

太田「そうですねえ、あとは離婚届を役所に持参して提出する際には、欄外に捨印を押しておく(届出人と証人二人分)とその場での訂正が簡単です。もっとも、絶対に捨印を押さなければ受理されないわけではないです。」

「はい、次!!」

太田「え~と・・・そうそう、前にもお話したかもしれませんが、まだ離婚の条件が決まっていないにもかかわらず、離婚届だけ完成させて相手に渡していて、それで勝手に提出されて酷い目に遭う人が少なくないので気をつけるようにして下さい。一旦受理されてしまうと離婚無効確認訴訟(注:調停前置主義なので先に調停を申し立てる必要がある。難しい上に手間がかかる)でひっくり返すのは困難です。出すつもりのない離婚届は絶対に自署して渡さない、渡してしまったら不受理届を一刻も早く提出する、これは基本ですね。」

「離婚事件で早く弁護士に相談に来て欲しかった、というケースはありますか。」

太田離婚調停の男性側が非常に危険です。養育費とか、婚姻費用とかですね。養育費や婚姻費用は一旦調停で決めてしまうと当分の間はその額を支払わなくちゃいけないんですよ。なのに、男性側はどうも高めの額で調停を成立させてしまうケースが多くて。払えるのならいいのですが、調停成立直後に『先生、払えません!どうしましょう?』と言われても、正直なところどうしようもないのです。せめて、算定額の表を見てから調停にのぞんでほしいのですが。」

「算定額の表は、最近は調べてから相談に来られる方も多いですよね。」

太田「そうなんですよ。だからかえって算定額の表を見ずに離婚戦略を立てると恐ろしいことになります。たとえ相手方に弁護士がついていないとしても、相手は機関銃を持ってるのにこっちは竹やりしか持ってない、みたいな。これだけネット上でも情報がたくさん提供されているわけですので、情報の多寡が勝敗を決めかねない。」

「怖いですね。」

太田「もっと怖いのは、婚姻費用や養育費からは破産しても逃げられないということです。非免責債権といいまして。離婚慰謝料に関しては免責債権になるという運用のようなのですが、婚姻費用と養育費はちゃんと破産法の条文にあるので支払わなくてはいけません。」

「破産するということはお金のない人なんですよね? だったら、仮に女性側で強制執行を申し立てたとしても取るものがないんじゃないですか。」

太田「甘い。破産したときにはお金がなくても、その後実入りのいい仕事に就いたとか、出世したとかで収入が増えて一財産できたらどうしますか? まとめてドカーンと差押えが来ますよ。昔、男性で当時(破産はしていなかったけど)お金がなくて、後から収入が増えて一気に差押えをされた、どうしましょ、なんて相談をうけました。『どうしようもない』としかお答えできません。たまった養育費の額もウン百万単位で可哀そうだなあとは思いましたが、その方もやはり自分で離婚調停を成立させていたんですね。」

「他の弁護士の離婚事件の処理で『そりゃないでしょ!』というのはありますか?」

太田「話がそれますが、たまにセカンドオピニオンを求められることがありますね。医療の世界もセカンドオピニオンを求める患者さんが増えてきているようなので、当然の流れなのかなあと思います。私の相談者や依頼者の方が、他の弁護士にセカンドオピニオンに行くのかなあと思うとちょっと怖い気もしますが、やむを得ません。今の弁護士の方針が正しいか疑問な場合や、相性が良くないと思うときはどんどんセカンドオピニオンを求めた方が皆さんの為です。」

「で、先生もセカンドオピニオンを求められて、絶句したことが・・・。」

太田「Aさんが思うほどありません(笑)。たいていの弁護士は妥当な処理をしております。ただ、今の弁護士と相性が良くないせいで、『この弁護士で大丈夫なんだろうか?』と疑ってしまったりする方は多いようですね。」

「でも、本当はまずいケースあるでしょ(にこにこ)。」

太田「慣れていない先生はね・・・。離婚ときくと、『調停前置主義だから離婚調停からスタートね!』ってあまり人の話を聞かずにオートマチックに離婚調停を勧める先生。調停が不成立になったら、『ほい、裁判!』って。」

「流れは正しくありませんか?」

太田「間違ってはいないけど、離婚調停と離婚裁判以外にやることがあるでしょうに、と思うわけですよ。何度も言ってますが女性側で婚姻費用の審判を申立て忘れるとか。子の引渡し・監護者指定の審判は存在すら知らないとか。」

「それはもう耳にタコなので、今回はそれぞれ申立て忘れたときの弊害を教えて下さい。」

太田「まず婚姻費用ですが、『いつからもらえるのか?』という点について学説の対立があります。純理論的に考えると別居時からもらえるはずなので、例えば別居後3か月経って婚姻費用分担調停を申し立てたとすると、婚姻費用をもらっていない3か月間については遡って婚姻費用をもらえるように思うのですが、普通は実務的にはそう考えないんです。あくまでも、請求した時点から婚姻費用がもらえる、という考え方なんですね。そうすると、例えば婚姻費用は月額6万円が妥当なケースだとすると、3か月間申立て忘れていたとすると、18万円損することになりますね。1年間だと72万円です。」

「わあ! 72万円もあれば状態のいい中古自動車が買えます。」

太田「お金の問題ならまだしも、親権争いで監護者指定・子の引渡しの審判を申立て忘れているケースはもっと悲惨ですよ。例えば女性がお子さんを置いて家を出たとしませんか? この女性がさっき書いたようなオートマチック弁護士に依頼するとどうなるか。」

「ど、どうなるんですか?」

太田「まず、離婚調停と、面会交流調停あたりを申立てそうですね。しかし、双方が親権を譲らないので離婚調停は不成立。面会交流調停もこういう場合はうまくいかず結構難航します。調停も3回4回じゃあ終わらない。女性、離婚は成立しないわ、お子さんに会えないわで大変ですよね。」

「それから、それから?」

太田「オートマチック先生、次は離婚訴訟を提起します。訴訟もかなり難航します。おおよそ調停で半年以上、訴訟で1年以上ってところですか。その間女性はお子さんにほとんど会えないの。酷い話ですよね。」

「わあ・・・。」

太田「最終的に訴訟で勝てばいいじゃない?と思うかもしれませんが、訴訟で女性に親権が認められたとして、男性が子どもを引き渡さなかったらどうするんですか。訴訟で親権が認められたからといって、お子さんの引渡しを男性に強制する効力はどこにもありません。親権はある、しかし子どもはいないという状態になるんですよ。」

「それ、勝っても意味がないですね。」

太田「全く意味がないわけじゃないですけどね。その後の手段はありますが、オートマチック先生に次の手段が思い浮かぶかどうか。『訴訟で負けたのに子どもを引き渡さないなんてケシカラン!』って怒るだけかもね。だったら離婚調停の前に子の引渡しと監護者指定の審判をやっておけよ、という。」

「う~ん、恐ろしい。」

太田「さらに最悪の事態をお話すると、調停や訴訟が長引いてしまったために、夫の元で子どもが長く養育されているという事実状態が重視されてしまって、結果訴訟で親権で負けるなんていうこともありえますね。依頼者は、オートマチック先生に、『だ~いじょ~ぶ、女性なんだから親権は勝てるよ!』なんて聞いて安心してたわけですよ。で、面会交流がうまくいかなくても、『だ~いじょ~ぶ、最終的には親権で勝てるんだから!』なんて言われるから、お子さんに会えなくても我慢するんです。なのに、ですよ?」

「それ実話ですか?」

太田「何とも言えませんな。しかし、あり得る話だとは思っておいてください。」

【参考リンク】
★札幌市ダウンロードサービス
http://www3.city.sapporo.jp/download/shinsei/search/procedure_view.asp?ProcID=334
★大東市のダウンロード様式
http://www.city.daito.lg.jp/kakukakaranoosirase/soumu/shimin/koseki/1252651049186.html
★算定表は、「養育費 算定表」、「婚姻費用 算定表」で検索すればたくさん出てきます。

弁護士 太田香清