調停に出て、裁判所側の人間を観察していると、誰が何の役職なのかなあ?と思うことがありますよね。年配の男女、これは調停委員でほぼ間違いないのですが、それ以外の人物は?
まず、初日から出てきてザ・役人という感じの人、これは裁判所書記官でしょう。私の認識では、申立人が、(真実はともかく)相手方が暴力夫であったり精神疾患があったりするなどと主張していて、ご年配の方だけでは対処しきれない可能性があると裁判所が判断したケースに登場することが多いと思うのですが、そうでない場合にもまれに出てきますので気になさらないでください。後者のケースで何のためにいるのかは正直分かりません(笑)。
調停が終盤を迎えてまとまりかけているときや、調停がなかなかまとまらないのだが調停で終わらせた方がいいと裁判所が判断しているようなときに出てくる人は裁判官ですね。これは雰囲気で分かるでしょう。もっとも、若い女性の裁判官だと分からないこともあるでしょう。法廷のように法服を着ているわけでもありませんしね。
それ以外に、ちょっと何者か良く分からない人が登場することがあります。最大公約数的なビジュアルを申し上げますと、男女ともやせ形で、多くはメガネをかけていて、仕事の服が地味なのは当たり前としても私服も地味だろうなあと思わせるような・・・明らかに書記官とも裁判官とも違う雰囲気です。まれに裁判官よりエラソーな人がいて驚愕することもありますが、例外中の例外。
このような人が出てきたら、それは家庭裁判所調査官というものです。親権争いになると必ず彼ら・彼女らのお世話になります。そして、調査官の報告書が審判や判決に多大な影響を及ぼすのです。そこで、今回は裁判所調査官が何者か考えてみようということです。
1 調査官にはどうやってなるの?
はっきりとしたことは言えませんが、法学部よりも人文科学系の学部の出身者であることが多いでしょう。というのも、試験(家庭裁判所調査官補採用Ⅰ種試験)に社会学や心理学が出されるので、人文科学系のほうが有利なはずだからです。
試験は難関で、合格率はここ数年12~14倍程度で安定している様子。国家Ⅰ種試験と待遇が変わらないようなので、難関なのはうなずけます。
ちなみに、志願者向けに現役調査官のメッセージ等が書いてあるページが裁判所のサイトの中にありましたので、参考までに。
http://www.courts.go.jp/saiyo/message/tyousakan/index.html
ほら、メガネはともかく、太った人がいません! もう少し年が上の調査官ですとメガネ率が高いはずです。私の経験則ですが。
なお、試験に合格した後、2年間の研修を経て調査官になるようです。研修の内容が知りたいものですね。文学部の人に法律の勉強はつらそうですが。
2 調査官の仕事は何?
先ほどURLを貼ったページにはこうあります。
家庭裁判所は,夫婦や親族間の争いなどの家庭に関する問題を家事審判や家事調停,人事訴訟などによって解決するほか,非行を犯した少年について処分を決定します。いずれも法律的な解決を図るだけでなく,事件の背後にある人間関係や環境を考慮した解決が求められます。
家庭裁判所調査官は,このような観点から,例えば,離婚,親権者の指定・変更等の紛争当事者や事件送致された少年及びその保護者を調査し,紛争の原因や少年が非行に至った動機,生育歴,生活環境等を調査します。
このブログには少年事件は関係がないので省略しますが、家事事件では「事件の背後にある人間関係や環境を考慮した解決が求められ」ますので、「事件の背後にある人間関係や環境」を調査するのが調査官のお仕事であると裁判所としては言いたいわけです。
例えば、子の引渡しや監護者指定の審判などでは、双方当事者に話を聞くだけでなく、監護補助者(となることが予定されている人)やお子さん自身から話を聞きますし、お子さんが住んでいる(または住むことになる)お宅を見に来たりもします。子どもの取り合いが激しい事案ではなくてもまれに調停に現れて調停委員や当事者にアドバイスすることがありますが・・・あれは何なんでしょうね。たまにひょっこり現れる書記官同様、良く分かりません。
3 調査報告書
子どもの取り合いのような事件では、調査官が2で述べたような調査をしたうえで調査報告書を作成します。審判や判決は、この調査報告書に基づいて出されます。ということは、調査報告書は非常に重要な物なのです。
もちろん、裁判官(審判官)が調査報告書を批判した上で別の結論の審判や判決を書いても一向に構わないはずなのですが、なかなかそのような冒険をしてくれる裁判官(審判官)はいません。
そういうことで、調査官対策として、事前には①自己に不利な報告書を書かせない、不利な報告書が出てしまった場合には、事後的に②報告書がいかにいい加減なものかをガンガン主張する、ということが考えられるわけです。
①については、要は「どういう状況なら自分に有利か?」という話で、非常に長い話になるため省略します。
②ですが、裁判官に調査報告書と違う判断を下させるのは非常に難しいわけなのですが、これを私は常々やりたいと思っておりまして・・・というのも、児童心理学や社会心理学の教養のひとかけらもない私ですら報告書を読んで、「何となく変だなあ」、「結論ありきじゃないか?」と感じることがよくあるからです。変だと思うのだけど、根拠を挙げて、論理立てて変だということを主張できない。それが常々悔しいと思っていることです。
悔しいと思うだけではだめですので、私は最近心理学の勉強を始めました。調査官はとりあえず「訓練を受けた公務員」でしかないわけで(臨床心理士資格のある人が万が一いたらすみません)、私が何か心理学系の資格を取ってやれば、こっちは司法試験にプラスアルファ心理学系の資格があるのですから、純粋に考えて調査官より強いように思うのですが、みなさんどうですか。弁護士以外の肩書を書いて、意見書を出して、裁判官の反応が見たいのですが、そんな私はいじわるでしょうか(笑)。
心理学の知識がないにしてもできる調査報告書批判もあります。単純な誤記の指摘、論理矛盾、事実誤認、この辺りを攻めることです。実は、昔、離婚事件で私が母親側代理人についていたのですが、前に調査報告書でいい結果が出ていたのに、父親側代理人にこれをやられまして・・・意見書の誤記や事実誤認の部分をガンガン指摘されて、「何といいかげんな調査報告書だ!」とやられたのです。最初は、何だ、向こうの代理人もやることがなくなったのかなあ、と思いました。明らかに誤記と分かる誤記やどうでもいいミスばかりでしたから。裁判官もそれを見て、「調査報告書には問題がないと思います。」なんて言っていたはずなのですが、結果的にもう一回別の調査官が調査に入ることになって、結果痛い目に遭いました。とりあえず、最後まであきらめないことがだいじなのかなあ、と思いました。
心理学の知識・経験を別の人に補てんしてもらうという方法もあります。いつもお子さんについて相談しに行っているカウンセラーさんに意見書を書いてもらうとか。でも、これはまだやったことがありませんので、どのくらい効果があるのかは未知数です。
弁護士 太田香清