離婚の際には父母の一方を親権者と定めなければならず(民法819条1項)、協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所の協議に代わる審判又は調停によることとなります(同条5項、家事審判法11条、9条乙類7号)。審判、判決による場合は裁判所が親権者を決定します(同条2項)。

 親権者の決定は、これまでのブログでも紹介されているように、あらゆる要素を考慮してなされます。今回は、その中の要素のひとつである「子の意思の尊重」について取り上げ、裁判例がどのような判断をしているのかみていきたいと思います。

 なお、考慮要素として、父母側の事情(監護の意欲・能力、心身の健康、性格、経済力、実家の資産、居住条件、居住・環境、子に対する愛情の度合い、従来の監護状況、親族等の援助の可能性、奪取の違法性、面接交渉の許容性など)、子の側の事情(年齢、性別、心身の発育状況、従来の環境への適応状況、環境の変化への適応性、兄弟の関係、子の意思、父母・親族との結びつきなど)が挙げられます(二宮周平・榊原富士子『離婚 判例ガイド[第2版]』(有斐閣、2005年)、馬場・澤田法律事務所『弁護士に聞きたい!離婚と子どもの問題Q&A』((株)中央経済社、2008年))。

 では、子の意思の尊重について。

 まず、子が満15歳以上のときは、裁判所は、その子の陳述を聴かなければなりません(人事訴訟法32条4項)。児童の権利に関する条約12条も、「自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する」とし(同条1項本文)、あらゆる手続において聴取される機会を与えるよう定めています(同条2項)。

 判例上は、15歳未満であっても、10歳以上であれば意思を表明する能力があるとしてその意思が尊重され、10歳未満の場合は意思の表明があってもその真意がより慎重に判断されています。

10歳以上の裁判例:親権者変更申立事件(佐賀家審昭和55・9・13)

事実

 夫婦には3人の子が居たが、夫が単身赴任中の妻の借金や男性関係により、離婚の協議が成立し、親権者の指定については、あまり話し合われないまま妻とされた。

 その後、妻は、職を転々とし住居も頻繁に変わるなど生活が不安定であったことから、長女(当17歳)は置き手紙をして父の元へ転居し、続いて長男(当15歳)も父の元へ転居し、両名は父の親権変更の申し立てに賛成。他方次男(当12歳)は母に同情し、母との同居継続を希望した。

裁判所の判断

 長女と長男については親権者を父に変更し、次男については、「いまなお、相手方との同居を望み、申立人の元へ移り住むことを躊躇し、同人の福祉の立場からは、いちまつの不安が残り、同人が一二歳にも達していることから、同人の選択にまかせるのが相当」として変更を認めなかった。

 本審判では、子の意思以外の他の考慮要素としては生活の安定の程度と父が次男の親権の変更に固執していないことが一言触れられているのみで、ほぼ子の意向に沿って判断されたといえます。

10歳未満の裁判例:子の監護に関する処分(子の引渡)申立却下及び子の監護に関する処分(監護者の指定)審判に対する即時抗告事件(東京高決平成11・9・20)

事実

 父が、夫婦関係調整の調停が不成立となった後、二人の子供のうち長女(当5歳)を散歩と称して連れ出し、父に対し、子の引渡しを命ずる仮処分審判がなされたが、父はこれに従わず、人身保護請求の準備調査期日にも仕事を理由に出頭しなかった。連れ出しから約5ヵ月後、裁判所で実施された母と長女の面接調査において、長女は母に激しい拒否的態度を示した。

原審判は,

  • 監護権者としての適格性や養育環境については優劣付け難い
  • 長女の拒否的な態度は激しいものであり、父母の対立による姉妹の分断はやむを得ないことを前提として、良好な関係にある父と暮らすという苦渋の選択を表明したもので、父と引き離すことは,さらなる精神的な外傷を与えこそすれ決して妹と分断された長女の福祉を回復するものではない、として父を監護権者に指定した。

抗告審の判断

  • 監護権者としての適格性や養育環境について
    父は長女を無断で連れ出し,裁判所の保全処分にも従わず,人身保護手続にも全く出頭しなかったのであり,そうこうしているうちに,長女は次第に父らとの生活に安定を見いだすようになったことは否定できず,安易に現状を追認できない。
  • 長女が示した拒否的な態度について
    長女の拒否的な態度は現在の監護者である父らからの影響が全くないとはいいきれないし、5,6歳の子どもの場合,周囲の影響を受けやすく,空想と現実とが混同される場合も多いので,たとえ一方の親に対する親疎の感情や意向を明確にしたとしても,それを直ちに子の意向として採用し,あるいは重視することは相当ではない。よって,いまだ6歳(決定時には6歳になっていた)の子が一度の面接調査時に示した態度を主たる根拠として監護者の適否を決めることはできず、拒否的態度の原因,姉妹を分断することの問題点,長女の年齢や発達段階を考慮したときにそのニーズを最もよく満たすことができるのは誰か,面接交渉の確保の問題など,多角的な観点から検討することが必要であった。

 監護権者の指定も同様の要素が考慮されます。この決定は、無断の連れ去り等により作出された環境について、例え子がその環境になじんでいたとしても評価をしていません。

 そのため、実力行使に走りがちな関係者に自制を促す決定として評価されています。そして、子の意思の尊重に関しては、確かに、幼児は自分の意思を外部に上手く表現できずその真意を判断することはとても難しいことといえます。

 しかし本件では裁判所も驚くほどの拒否反応をしていたようで、そのような一見子の態度が明確なような場合でも、幼児の場合はその真意が慎重に判断され、他の要素の比重が相当大きいことを示しています。

弁護士 池田実佐子