子どもの引渡しについて裁判所が判断する際、引き渡しを求める側が男親であることは不利な判断要素となるのでしょうか。

 一般的には、裁判所は、将来的にどちらに育てさせることが「子の福祉」にかなうか、という観点から判断します。だから、子どもがまだ乳幼児という場合を除けば、男親であることそのものが不利な要素となるわけではありません。

 父親が母親の下で育てられている子どもを取り返すのが難しいのは、男親だから、ということよりは、母親の下で安定して育てられている状態を尊重すべきという継続性の原則及び母親と暮したいという子の意思の尊重等により、そのまま母親に育てさせることが子の福祉に適うと考えられるからでしょう。

 では、母親のもとで育てられている子どもを取り返すことはできないのでしょうか。そうとは限らない、という事例を一つご紹介したいと思います(東京家裁八王子支部審判 平成20年(家)第1678号)。

 この事件では、離婚で揉めている間に、母親が父親に無断で7歳の子どもを連れて、行き先も告げずに荷物を持ち出して転居し、転校手続きも取ってしまったため、父親が監護者指定と子の引渡を求めて審判と審判前の保全処分の申立てをしました。

 母親の従来の監護に問題がなかったとは言えないものの、現在、子どもと母親との関係は良好で、転校先でも特に問題なく過ごしており、子ども自身は引っ越しや転校はしたくないと言っています。これに対して、父親の方も子どもとの関係は良好で、実母と同居し養育態勢は整っています。なお、母親は父親と子どもとの面会交流に消極的で、裁判所による調整についても拒絶的反応を示していました。

 通常、このような場合、裁判所は、表面的には現状の監護状況に問題がないことから養育環境の継続性を重視し、子どもを現実に監護している母親に監護権を認めることが多いと思われます。しかし、この事件では、裁判所は、父親を監護者と指定し、母親に対し子どもの引き渡しを命じました。

 私としては、判断の中で考慮された事情として、母親が面会交流を拒絶していることについて「未成年者が社会性を拡大し、男性性を取得するなどの健全な発育乃至成長に対する不安定要素」ととらえ、監護権者としての不適格性を示すものと判断したこと、母親との同居を希望する子どもの直筆の書面について年齢や紛争の経過から子どもの真意として考慮しない、と判断したこと、これらの事情を総合的に判断して安易に現状維持の判断をしなかったという点で興味深い事例だと思っています。

 もちろん、個々の事案で結論は異なってきますが、このような事件で、「継続性の原則」や「母性優性の原則」「子の意思の尊重」という言葉の前に心細くなっている男親にとっては勇気づけられる裁判例ではないでしょうか。

弁護士 堀真知子