自分の夫又は妻が家を出て不貞相手と暮らし始めてしまった場合、弁護士を頼んで不貞相手に何か請求しようとするときには、損害賠償請求、つまり「お金を払え」という請求をすることが一般的です。では、不貞相手に対して、同棲や面会をやめろ、と請求することはできるでしょうか。

 同棲や面会をやめろという請求は、法的には差止め請求ということになりますが、相手方の行動に対して制約を課することになりますので、これが認められるには厳格な要件が必要です。

 この点について争われた珍しい事例をご紹介します。

 原告の夫と不貞相手の女性とは、20年近くにわたり交際し、原告の夫は、交際が原告にばれるとすぐに家を出て、居所も告げないまま原告と別居するようになりました。
 一方、不貞相手の女性は、原告からの交際を禁じる念書の差し入れの要求を断り、原告が夫と別居した後も、彼の衣服を洗濯するなどして世話をしており、原告の夫との結婚を希望していました。

 そこで、原告は、この不貞相手の女性に対し、慰謝料請求をするとともに、不貞相手が夫と会うこと及び同棲することについて、将来も同様の行為を継続する高度の蓋然性があり、これによって原告は著しい精神的苦痛を被るおそれがあるという理由で、人格権又は不法行為に基づく差止めを請求しました。

 これに対して、裁判所は、まず、面会の差止め請求について、面会すること自体が違法とは到底いえないとして棄却しました。そして、同棲の差止め請求については、差止めが相手方の行動の事前かつ直接の禁止と言う強力な効果をもたらすものであるため、事後の金銭賠償によっては原告の保護として十分でなく、事前の直接抑制が必要と言えるだけの特別な事情のある場合に認められるとしました。

 その上で、原告と夫との婚姻関係は元に戻ることは非常に困難で、原告としても本心では離婚もやむをえないと思っているが、夫が不貞相手と同棲することは許せないという気持ちから離婚に応じていないという事情を指摘し、今後の二人の同棲によって直接的かつ具体的に原告と夫の平穏な婚姻関係が害される関係にはなく、侵害されるのはもっぱら原告の精神的な平穏であるとして、このような場合には同棲の差止めを認めうるだけの特別事情はないとして請求を棄却しました(大阪地裁/平成10年(ワ)第7687号)。

 原告と同じ立場の人であれば、とにかく不貞相手と夫が一緒に幸せになるなんて許せない、お金をもらうより同棲をやめさせてほしい、と考えるかもしれません。しかし、上記の裁判例によれば、差止めが認められるハードルはかなり高いため、やはり金銭の問題と割り切って考えるしかないのではないでしょうか。

弁護士 堀真知子