2 親権と監護権を分ける場合
(1)原則
まず、一般的には、子供と同居し、看護、養育する親に親権がある方が子供の福祉に資するといえることから、原則としては、親権者と監護権者は一致されるものと考えるべきです。
もっとも、財産管理については経済力のある父親の方が適任であるが、子供がまだ幼いことから母親の方を監護権者としたほうが子供の養育を行う上では都合がいいという場合はありえます。
また、離婚をするにあたって、親権者をどちらにするかで話し合いがまとまらず、どっちつかずの状態に陥ってしまうと子供の健全な成長に悪影響を及ぼす恐れもあります。
そのような事情がある場合には、例外的に父親を親権者、母親を監護権者と定めたりすることも法的に認められています。
(2)メリット
まず、離婚によってやむを得ず、片方の親と離れて暮らすことにある子供にとって、離婚後も双方との親とのつながりを持ちやすいというメリットがあります。
夫婦が離婚をする場合に、一方が監護権者、一方が親権者となれば、子供にとっては、どちらの親とも繋がりを持ちやすい環境が整備されることにつながります。
そのため、離婚により片方の親のみと同居することになっても、子供への安心感を与えることが可能となります。
離婚をしたとしても、母と子、父と子の関係は切れるわけではないですが、やはり法律上の権利、義務としての繋がりがあるとないとでは大きな違いがあります。
次に、親権を巡って鋭く対立する離婚の話し合いにおいて、解決の糸口になるというメリットがあります。
たとえ離婚という決断をしたとしても、我が子が可愛いのは当然のことであり、しばしば夫婦間で親権を巡って対立が激化することがあります。
しかし、夫婦の間に未成年者がいる場合、親権者を指定しなければ離婚できないというのが法律の規定になっていますから、親権者について合意ができないといつまでも離婚が成立せず、時間だけが経過していくという事態になりかねません。
そのよう場合、親権者と監護権者を分ける折衷的な案で合意することにより、子供との関係を維持したいと考える双方ともに納得のいく形で離婚を成立させられる可能性が出てきます。
親権と監護権を分けるという選択肢を採用する場合、特に父親側にメリットが大きいといえます。
現在、我が国において離婚をする夫婦の多くは、母親が親権者となり、父親が養育費を負担するといった形で合意しています。
しかしながら、いざ離婚をしてみると、子供にはほとんど会えず、子供の養育にも何ら責任も持てないにもかかわらず、養育費の負担だけはのしかかってくるという状況の方々がいます。
そのような状況を回避して、離婚後の子供との関係性、子供の養育への責任を持つという観点から親権と監護権を分ける形で合意をしておくことが考えられます。
(3)デメリット
まず、親権と監護権を分けた場合、子供の名字の問題が生じます。
例えば、離婚時に監護権者となった母が、もし以前の苗字に戻してしまった場合、子供と苗字が異なるといった、見た目としての不都合も生じえます。
そのような場合、法律上、子供の苗字の変更は不可能ではありませんが、親権者の合意がないことには変更が認められることはまずありませんことから、子供と異なる苗字のままになってしまうおそれはあります。
そして、これを回避しようと思うと、離婚後も母親が婚姻時の苗字を名乗り続けなければならないことになりかねません。
次に、親権者の同意が必要な手続きを行う場合には、監護権者となる親が、その都度、親権者となる親に連絡を取って、同意を得る必要が生じる煩わしさがあります。
例えば、子供が交通事故にあって手術を受ける必要がある場合、通常は、父母どちらか一方の同意をすれば問題はありませんが、親権者と監護権者が個別になっていたとなれば、監護権者の同意だけでは足りず、親権者からの同意がなければなりません。
親権者がすぐに連絡の取れる状況であれば良いですが、遠方で暮らしている等の事情で連絡がつかない場合は、手術を行うのが困難になりえます。
また、役所から各種手当を受給するのも基本的には親権者であることが多いですから、各種手当について実際に子供を監護、養育する監護権者が利用するためには、親権者の協力が必要になります。