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旦那様が亡くなっても、直ちに奥様が亡旦那様の両親と縁が切れるわけではなく、亡旦那様の両親との法的な関係性(これを「姻族関係」といいます)は継続します。しかし、基本的には、法律上、亡旦那様の両親に対して「扶養義務」を負うのは、亡旦那様の直系血族及び兄弟姉妹です。ただし、特別の事情(亡旦那様の両親と同居している場合等)及び家庭裁判所の審判があるといった例外的な場合には、奥様が亡旦那様の両親を扶養する義務を負うことがあります。

そこで、亡旦那様の両親に対して、法的な扶養義務を負担することを避ける方法の一つとして、「死後離婚」という手段があります。「死後離婚」とは、具体的には、「婚姻関係を終了させる意思表示」によって、亡旦那様の両親との姻族関係を終了させることをいいます。この方法により、亡旦那様の両親との姻族関係が終了し、奥様は、亡旦那様の両親の親族ではなくなるため、法律上、亡旦那様の両親の扶養義務を負うことはなくなります。

1 死後離婚とは?

 法律上、「死後離婚」という名前の制度は存在しません。
 そもそも「離婚」とは、婚姻関係にある夫婦が、姻族関係を終了させることをいいます(民法728条1項)。「姻族関係」の終了ですから、夫婦としての関係のみならず、他方配偶者の親や兄弟姉妹等との関係も終了することになります。
 婚姻関係にある夫婦の一方が死亡した場合は、この「離婚」の手続を踏んでいない以上、亡配偶者の親や兄弟姉妹等との法律上の親戚関係は終了していないことになります。

 では、その場合、亡配偶者の親(舅又は姑。以下、上記質問に平仄を合わせて単に「姑」と表記することがあります)の面倒を見なければならないのでしょうか。
 ここでいう「面倒を見る義務」は、法的には「扶養義務」と考えることができるでしょう。「扶養義務」とは、親が子を扶養する、又は成人した子が親を扶養する義務等をいいます。この「扶養義務」は、通常、親子や兄弟姉妹の間でのみ負うものですが、例えば、姑と同居している場合等「特別の事情があるとき」は、姑に対しても扶養義務を負うことがあります(ただし、家庭裁判所の審判が必要。民法877条2項)。

 このように、夫婦の一方が死亡しても、生存配偶者は、姑との姻族関係が継続することにより、何らかの法的義務を負う可能性があるといえます。そこで、このような「姻族関係」を終了させるためには、「婚姻関係を終了させる意思表示」をする必要があります(民法728条2項)。この意思表示をすれば、姑との姻族関係も終了し、法的な扶養義務等を負うことはなくなります。世間一般でいわれている「死後離婚」は多義的ですが、法律的には「婚姻関係を終了させる意思表示」を指しているものと思われます。

2 死後離婚の効果や注意点(家族、お金、相続問題など)

⑴ 効果

「婚姻関係を終了させる意思表示」(以下、単に「死後離婚」といいます。)による法律上の効果は、亡配偶者の親や兄弟姉妹との姻族関係(いわゆる「縁」)を切ることです。姻族関係が終了する以上、「親族」ではなくなるので、扶養義務を負うことはありません。

⑵ 注意点等

 死後離婚をする上で気にかかるポイントとして、相続、遺族年金、氏(名字)についても説明しておきます。

 まず、生存配偶者には、もともと、(亡配偶者が亡くなった後に)舅や姑がなくなった場合に亡舅や亡姑を相続する権利はありませんが、たとえば生存配偶者と亡配偶者との間に子がいる場合、その子には、亡舅や亡姑を相続する権利があります(これを「代襲相続」といいます)。この「子の代襲相続権」については、死後離婚によって何ら影響を受けず、子は亡舅や亡姑の相続人となり得ます。
 次に、遺族年金を受け取っていた場合でも、死後離婚によって何ら影響を受けず、遺族年金を受給し続けることができるとされています(厚生年金保険法63条)。
 また、生存配偶者の氏(名字)は、配偶者の死亡によってもそのまま婚姻時に名乗っていた氏のままなので、旧姓等に戻りたい場合には届け出る必要があります(民法751条1項、戸籍法95条)。仮に生存配偶者に子がいる場合、生存配偶者が復氏をすると、その子の氏は自動的に生存配偶者と同じ氏になるのではなく、生存配偶者と同じ氏になるには家庭裁判所の許可を得る必要があります(民法791条1項)。

 死後離婚に関するその他の注意点として、次のようなことが考えられます。
 まず、死後離婚は、気持ちの面だけでなく法律的にも「縁を切った」という意思表示になるので、今後、亡配偶者の親や兄弟姉妹等と関わることは難しくなると思われます。具体的には、同じお墓に入れてもらえない、名前を変えることを強要される、舅や姑からの生前贈与や遺贈は期待できない(もっとも、生存配偶者に代襲相続権があることは前述のとおり)、等です。
 また、姑と縁を切りたいがために死後離婚をしたとしても、なお姑がしつこく関わってくる可能性があることも否定できず、事実上、やはり面倒を見なければいけないような状況になる可能性は否定できません。
 死後離婚をするかどうかは、その目的や姑の性格等を考慮した上で検討してみてください。

3 どうすれば死後離婚が成立しますか?

 死後離婚の手続は簡単です。
「死亡した配偶者の氏名、本籍及び死亡の年月日」を記載した届書等必要書類を用意して届け出ることにより、手続きは完了です(戸籍法96条)。
ご心配なようでしたら、弊所にお問い合わせいただければと思います。